Liricoニュー・リリース:Phum Viphurit『Manchild』〜新星はバンコクから〜
これまで10年にわたってサッドソングの歌うシンガーソングライターを主にリリースしてきたLiricoですが、今回リリースするのはその路線とはちがったアーティストです。バンコクを拠点に活動するシンガーソングライター、プム・ヴィプリット。ニュージーランド育ち、英語で歌う22歳の若いシンガーソングライターです。彼が2017年のはじめにリリースしたデビュー・アルバム『Manchild』をおよそ1年遅れでライセンスリリースいたします。
日本でも早耳のインディーリスナーに注目されていたというプムくんですが、ぼくが出会ったのは昨年秋の台湾出張のとき。日本人客はぼくを入れて5人くらいというこじんまりとした音楽フェスにたまたま出演していたのが彼で、エレクトリック・ギター弾き語りで披露したたった30分間の演奏だけでリリースを決意しました。誰かのライヴを観て、ダイヤモンドの原石を見つけたような感覚を抱いたのははじめてのことでした。
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高校時代にはジャズの聖歌隊に加入したことでジャズやソウル・ミュージックの影響を受け、スティーヴィー・ワンダー、フランク・シナトラなどの楽曲に親しみ、同時期に出会ったマック・デマルコ、ボン・イヴェール、ドーターといったシンガー・ソングライターやバンドにも影響を受けた彼の音楽はアコースティックなインディー・フォークがメインですが、彼が世界的に注目を集めるようになったのはアルバム収録曲「Long Gone」のミュージックヴィデオがきっかけでした。
大学で映画を学んでいるプム自ら監督したミュージック・ヴィデオは最高にクール&キュート。アーバンさすら感じさせるドリーミーでファンキーなこのチルアウト・アンセムは世界中で中毒者が続出中です。90年代後半から2000年代はじめのタイ・ミュージックの派手なミュージック・ヴィデオに対するオマージュ/パロディーとして制作され、撮影にはプムが通う大学のキャンパスが使われています。そして主演を務めるキュートな女の子は、プムがバンコクに戻ってシンガー・ソングライターとしての活動をはじめたころからの最古参のファンの子を招いたそう。プムとファン・ガールによるキュートなダンスとレトロ・ファッション、そのノスタルジックな映像の魅力によって、タイのみならず、中国で、台湾で、そして日本や欧米でバイラル的に広まっています。
小柄な人が多いタイ人ですがプムくんはサンフレッチェ広島に移籍したタイ人ストライカー、ティーラシンと同じぐらいの長身(181cm)。人当たりも最高でなによりルックスがさいこうにキュート。きっと会えばみんなすきになるとおもいますよ。
Liricoニュー・リリース:Tamas Wells『The Plantation』
Liricoの2017年最後のリリースは、レーベルの最重要アーティスト、タマス・ウェルズの6作目となる最新作です。
前作『On the Voalatility of the Mind』から3年半ぶりとなるアルバム。かなり無理のある制作進行スケジュールとなったのは、ちょうどいま行われている中国ツアーのスケジュールに合わせてミックス、マスタリング、アートワークが進行していたからで、Liricoとしてはいつだってタマス・ウェルズのアルバムを世界で最初にリリースしたい、というそんなある種のエゴからでしたが、結果的になんとか間に合いました。
2012年にミャンマーからオーストラリアに戻ったタマスにとって、このアルバムは2004年のデビュー作以来はじめてオーストラリアで書かれた曲だけで構成された作品となりました。前作はオーストラリアに戻ってはじめての作品だったものの、ミャンマーで書かれた曲が半分くらいを占めたとてもパーソナルなソロ・アルバムでしたが、本作では長年タマス・ウェルズを支えてきたバンドメンバーたちがほぼ全員(アンソニー・フランシス以外)参加しています。
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前作では封印していたピアノとアコースティック・ギターが再び戻ってきましたが、さらに今回ドラムとベースをはじめてちゃんとしたかたちで使用。よりライヴのフィーリングを作品にもたらしたかったとのことですが、2014年のバンドセットでの来日ツアーで聴かせてくれたバンド・サウンドを確かに想起させます。バンド編成なのに極めて静かで繊細な、タマス・ウェルズならではのあの演奏を実際に観たことがある方でしたら納得していただけるでしょう。真冬のオーストラリアで作られたのに、まるでそよ風が肌をくすぐるようなぬくもりと、これまでにはなかったときめきすら感じさせる、タマス・ウェルズ史上、もっともポップな作品。そんなタマス・ウェルズの新境地は「Please Emily」を試聴してご確認ください。
アルバムのラストトラックでタイトルトラックでもある「The Plantation」はこどもの頃、実家の近くにあるマツの造林地を駆け巡った遠い記憶をテーマにしていますが、本作に漂うノスタルジーの理由をアルバムの最後に知ることになります。ポップな曲が立ち並ぶこのアルバムのなかでもっとも静かで穏やかなこの名曲は、ライヴのラストでよく演奏される定番のフェアウェル・ソング「Grace And Seraphim」のような慈しみに満ちています。
40代となってはじめて作った作品は、20代のとき以来となるバンド作品となりました。また彼のうたが日本で聴ける日を夢見ています。
Liricoウェブ購入特典として、2014年の東京・光明寺でのライヴ音源とレーベルサンプラーのダウンロード・カードをお付けいたしますので、ぜひ!
(特典はアナウンスなしに終了する可能性がございます)
『Ending Music』セルフライナーノーツ
「この世を去る60分前に聴く最後の音楽」をコンセプトにしたコンピレーション・アルバム『Ending Music』。発売からすでに2週間ほどが経ちましたが、この作品の選曲者として、ディレクターとして、すこしだけ記したいとおもいます。
経営がうまくいっていない企業ならたぶん漏れなくなんらかの「企画」を考えさせられるとおもいます。この作品もそういうかんじで会社から求められて作ったものですが、構想自体は何年も前からありました。2014年に江戸川橋の水道ギャラリーで「うつくしいおんがく展」という企画をやらせてもらったことがあります。100枚のCDを展示し、そこには内容の説明はいっさい記載せずに、その作品を聴いて浮かんだことばを記しました。そのときガレス・ディクソンの『Collected Recordings』に記したことばが、たぶんこのコンピのはじまりです。そこにはこう書かれていました。「ぼくが死んだときは、これを聴いておもいだしてください。」
Gareth Dickson 「If I」。これがもともとのはじまり。
正直、実際に死ぬときに音楽を聴ける状況にはいないことは当然だとおもうので、このコンセプトに対して頭がおかしいとおもわれるかたもいらっしゃることでしょう。けど、死は人生のさいごに訪れるできごとであり、それはとても個人的で、とてもおだやかなものであってほしいというおもいから、それにふさわしいうつくしい音楽を集めました。今回はインストですが、もしかしたらいずれヴォーカルトラックでおなじ内容のコンピをつくることもあるかもしれません。当然、みずからの死の経験なんてないですし、死にちかづいた経験もほんのごくわずかなので、これはもうほんとうに個人的な作品ですが、コンセプトがじぶんの感性に合う合わないはともかく、とにかく安らかさと穏やかさを必要としているひとの60分間にとってたいせつな役割を果たしてもらえればいいと願っています。
ふつうディレクターとしてコンピをつくるときは、だれか別の選曲者がいて、楽曲の許諾など実務的なことしかタッチできません。だから、内容の企画から選曲、アートワークに至るまで100%じぶんの裁量でできるのはとてもたのしい作業でした。今回選んだ18曲は、いずれもこの10年間で関わりがあるレーベルやアーティストから借りています。条件が合わないために諦めた曲もなくはないですが、ほぼ満足のいく内容です。
ラストを飾るのはピーター・ブロデリックの「A Beginning」。このポジションはこのコンピを考えるまえからあらかじめ決まっていたと言えます。昨年の来日ツアーのファイナルのアンコールのいちばんさいごにこの曲を演奏されましたが、たぶんそのときからこの曲はこのポジションにふさわしいと思い描いていました。「この世を去る60分前に聴く最後の音楽」ですが、このコンピは実際は61分ちょっとあります。つまり、「A Beginning」の途中でこの世を去る、というイメージです。ささいなことですが。
アートワークは生平桜子さんのドローイングをお借りしました。Liricoの白鳥ロゴは鳴かない白鳥が死をまえにしてうつくにしい歌をうたうという「スワンソング」の言い伝えからきていますが、そのイメージに彼女のドローイングはとてもフィットしました。パッケージの出来上がりもうつくしいものに仕上がっているので、ぜひ手にとっていただけたらうれしいです。
なお、ウェブショップの購入特典として、Liricoのカタログのヴォーカルトラックから同コンセプトで選んだコンピ『swan songs』のCD-Rをプレゼントしています。
Liricoニュー・リリース:Tom Adams『Silence』
〜たった3分で人生はかわる〜
Liricoの2017年3作目のリリースは、ベルリン在住のイギリス人シンガー・ソングライター/作曲家トム・アダムスのデビュー・アルバム『Silence』です。実は2016年のデビューEP『Voyages By Starlight』のときから追いかけていたのですが、このデビュー・アルバムはまさに宝物のような作品になりました。ほんとうに美しいファルセット・ヴォイスはタマス・ウェルズやエギル・オルセンとかよりもずっとソウルフルですが、同様のスペシャルさをもっているとおもいます。
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いまはまだ20代なかば〜後半くらいですが、元々はアンビエントやポスト・ロックを作っていた彼が真剣に歌に取り組むようになったのはほんの数年前のこと。そんな彼のターニングポイントは2014年の初夏にはじめて訪れたベルリンに着いたその夜、ニルス・フラームのコンサートでの出来事でした。その日は彼が企画してつくられた世界でひとつの手作りアップライトピアノUna Cordaのお披露目演奏会。ニルスはオーディエンスをステージに招いて演奏させるということをよくやるのですが(かつて東京でのタワーレコード・インストア・ライヴでもそうしていました)、そこで志願したのがイギリスからの旅行者トム・アダムスでした。トムはそこで本作の最後に収録された「Time」を演奏します。マイクスタンドがなかったのでニルス自らがマイクスタンド役を務めました。スケートボードを抱えたTシャツ短パンのカーリーヘアの名もなき青年が突然、世にも美しいファルセット・ヴォイスで歌いはじめたところを想像してみてください。300人のオーディエンスは驚嘆しました。マイクを手にしていたニルスも思わずピアノを連弾しはじめます。演奏終了後、おおきな歓声に包まれるトム。バッグいっぱいに持っていた自主制作のCDは売れに売れたといいます。ニルス・フラームのマネージャーはいまではトム・アダムスのマネージャーでもあります。その演奏をきっかけにレーベルと音楽出版社が決まり、トムは故郷のケンブリッジの田舎町からベルリンへと移住します。「スーザン・ボイル的」と誰かは書いていました。音楽の魔法。たった3分間の演奏でトム・アダムスの人生はおおきくかわりました。
歌への関心を少しずつ強めていっていた彼が、ピアノとエレクトロニクスに歌を絡み合わせた現在の音楽性を手に入れたきっかけは、2015年にア・ウイングド・ヴィクトリー・フォー・ザ・サルンのサポートアクトに抜擢されたことでした。当時、ライヴではピアノを使用せずギターのみのセットだったようですが、このシフトチェンジは英断だったのではないでしょうか。「Come On, Dreamer」「Sparks」「Time」と先行シングルとして公開された3曲はいずれもものすごい名曲。ちかくにニルス・フラームというロールモデルがいること、そして彼の静寂の歌のポテンシャルをおもえば、トム・アダムスの逆シンデレラ・ストーリーはたぶんまだはじまったばかりなのだとおもいます。
Liricoニュー・リリース:Kim Janssen『Cousins』
〜アジア育ちの美しきシンガー・ソングライター〜
4/9、Liricoよりオランダ人シンガー・ソングライター、キム・ヤンセンの5年ぶりのニュー・アルバム『Cousins』をリリースします。
2歳のときに両親のしごとの都合で東南アジアに移住。その後、タイのバンコク、カンボジアのプノンペン、ネパールのカトマンズを転々とし、16歳にオランダに戻ったという変わった経歴。デビュー・アルバムは2009年のリリースですが、作ったのは18歳のときという早熟な才能。そのデビュー作『The Truth Is, I Am Always Responsible』はとても枯れていて最初から成熟していたかのようなシンガー・ソングライターです。ザ・ブラック・アトランティックというインディー・フォーク・バンドに参加していた時期もありました。
2012年の2nd『Ancient Crime』は静かで荘厳で美しい名作。ぼくがキム・ヤンセンの音楽に出会ったのはそれよりもずっと後でしたが、東南アジア育ちというバックグラウンドを持つ美声シンガー・ソングライターということでタマス・ウェルズとの共通点を感じ取ってシンパシーを感じていました。次のアルバムが出るときはリリースしたいな、と。
そして、ようやく3rdアルバム『Cousins』が届き、縁あってリリースすることになりました。
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先行シングルでもある1曲目「Dynasty」を聴いて吹き飛ばされました。そのあまりのアンセムっぷりに驚かされましたが、アルバム全体がこれまでのアコースティック・フォーク路線からインディー・ポップへと大きく舵を切った作品です。1stからすでに成熟していましたが、それから10年近く経ってむしろ若返ったようなサウンド。どうやら前作を作ったあとから次はもっとエレクトロニックなものにしたかったようです。
前作『Ancient Crime』は11歳から15歳までのあいだネパールのカトマンズの英国寄宿学校で過ごした生活と記憶にインスパイアされたものでしたが、この作品はそれよりも前、バンコク時代の幼き日々の記憶を辿るようなスピリチュアル・ジャーニーです。おそらくLiricoの作品群を好んで聴いていただいている方々には前作以前の作風のほうがフィットしそうだとおもいますので、ぜひこの作品をきっかけにキム・ヤンセンのすてきな音楽を深くたどっていただけたら幸いです。ちなみにアートワークには東京の街の写真が使用されています。本人はまだ日本には来たことがないようですが、親日家とのこと。