metoropolis now 「metoropolis now」
metropolis now。 この、映画「地獄の黙示録」の原題”Apocalypse Now”を
もじった名を冠してデビューしたユニットが、Side Roadの2006年第一弾リリース
となる。構成メンバーは、Def3/Forgetful Jones/Kay The Aquanautの3人。
プロデュースは当然、レーベル総帥であるFactorが全曲を務めている。
交差点に一人立つ少女、その凛とした佇まい。空の青さとたなびく白雲。
いつになく牧歌性が強調された印象深いジャケット(裏ジャケは全面の鱗雲
である)が、まず人目を引く。このユニットのメンバーを見ても、顔と声と名前
が一致する人はそれほど多くないかもしれない。言わば、Side Roadクルー
地味サイドとも言えるのだけれど、だがこれが侮れない。どころか、非常に
クオリティが高いアルバムだ。Side Roadクルーが絶妙なマイクリレーで
魅せるユニットというのは、 昨年発表されたクルーアルバムを除いて実は
初めてのこと。
決してレーベルを代表するというメンツではないかもしれない。クルーに
最も古くからいる男(Kay The Aquanaut)、最も新しく加わった男(Def3)、
リーダーアルバムも発表していない客演に徹する男(Forgetful Jones)。
この奇妙なトリオによるアルバム世界は、統率するFactorのプロダクション
が2005年にも増してレベルアップしている故に、安心して耳を傾ける
ことができる。これまでのFactorプロダクションの代名詞的存在だった
リリカルさは陰を潜め、その代わりにカナダの厳冬を想起させる陰鬱さ
漂うメランコリック方面へと見事に振れている。跳ねるようなピアノを封じ、
地を這うような弦に委ねる。そして早回しやテンポを落としたサンプル
コーラスを大胆に用い、個々のMCによるマイクリレーを繋ぐ鎹(くさび)
の役割を与えている楽曲が目立っている。
三者三様のフロウを絡ませる楽曲や各々がメインを取る楽曲など、多彩で
あるのだけれど、やはり圧巻中の圧巻は最終曲”Another Tomorrow”。
上記3人に加えてNoltoと Cam The Wizzardを客演に迎えたこの楽曲は、
間違いなく2006年を代表することになるだろう。それだけでなく、ポッセカット
としての完成度は比肩するものがないくらいに群を抜いている。ナードヒップ
ホップというジャンル(?)で最も弱かった部分を完全に補強するだけでなく、
その史上に燦然と輝くマスターピースとしてのアンセムが今ここに誕生した。
それを祝おう、俺たちの名曲の生誕を。
これは開放感と言い表しても良いのかもしれない。
長い長い冬が終わりを告げ、待ちわびた春が到来するかのような。
あるいは長いトンネルを抜けると風景ががらっと変わってしまうかのような。
呪術めいた打楽器、そしてアコースティックギターと深い幽玄を湛えるチェロ
の音色によって導かれていく。このトラックをインストだけで聴いても、きっと
胸が高鳴るだろうに、最後にきてサンプルコーラスではなく全員で歌われる
フックが持つ強度ときたら。そのフックで絶妙に入れられるヴァイオリンの弦
が持たらす効果ときたら。客演のCam The WizzardのバリトンフロウとNolto
の泣きのフロウの妙ときたら (間違いなくNoltoの客演史上最高のフロウ!)。
ここには何一つ瑕疵などなく、ただただ救済のみがある。
この、2006年に誕生したナードヒップホップ史上最高のポッセアンセム、
そのフックに込められたリリックに涙したのである。 英語、日本語、スペイン語、
イタリア語などをブレンドして唄われるこのメッセージ。
Asta La Vista Sayonara
Yesterday Is Another Tomorrow
Please Don’t Sorrow
(中略)
Nice To Meet You
Buenas Noches
Ciao Amigo
Everything Is OK
Sayonara Another Friends
Promise You And See You Again
(中略部分はヒアリング不可能だったパート。ヒアリングby大崎兄弟)
畜生、素敵すぎる。他のリリックは聴き取れなくても、これだけは
わかったよ。なんということだ! 涙が止まらないじゃないか、
カナダ人の連中にこんなこと唄われたらさあ。ラスト1分が持つ
浄化の作用、身体震わせて欲しい。クロージングにこそ相応しい、
とんでもない名曲。ヒップホップにそこまで詳しくはない友人が、この
楽曲を評してこう語った。「ZONEの”Secret Base~君がくれたもの~”
に対する正当なる回答だ」、と。まさに、その通りなのだ。
大切な友人との別れ、そして再会の約束を唄った、オトコノコのアンセム
からはや5年。日本からカナダへと国を変え、夏から春へと季節を変え、
こうして再び届けられた。こうして俺たちはまた、オトコノコに戻る。
アスタラビスタ、サヨナラ。チャオ アミーゴ。サヨナラ、アナザーフレンズ。
●試聴はこちらから→http://www.sideroadrecords.com/metropolis06.html
This entry was posted on 2006年 2月 23日 at 14:34 and is filed under disc review. You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed. You can leave a response, or trackback from your own site.