Tamas Wells Japan Tour 2010 後記(中編:12/4京都)
最初にタマス・ウェルズと今回のツアーの話をしたとき、ブッキングはぼくに任せられていたのだけど、スケジュールの問題でタマスからの要望には関西での公演は含まれていなかったことをまずは正直に告白しておきます。
それは彼が地方に行きたくなかったというわけではもちろんなくて、過去の2度の来日経験から、東京と関西を連日行ったり来たりするのは現実的ではないと知っていたからでした。
けど、せっかく来日があるのに関西に行かないとしたら、ぼくは死ぬほど怒られていたでしょう。そういう大ファンを何人も知っていたので、体力的にも負担になることは覚悟のうえで、ブッキングしたわけですがほんとうによかった。
たとえば、2008年のノマドの大阪公演で「Boardercross」の演奏中に合唱が起こったときにぼくが感じた幸福感。それと同様の魔法に満ちた夜でした。
今回の京都公演はART ROCK NO.1さんの主催。そして、同じ日にシャロン・ヴァン・エッテンが京都公演を行うということが発覚し、だったらいっしょにやりましょうということに。結果的にはこの組み合わせが奇跡を生んだと言っても過言ではないですよね?観た方々は同意してくれるはずです。
リハーサルに間に合うようにUrBANGUILDを探してうろうろしていると、会場の外でいきなりタマスのファンに出会いました。どうやらライヴには来れないけど、一目会いたいということで待っていてくれたみたいで・・・「出待ち」っていうのは知っていましたが、「入り待ち」っていうのもあるんですね。すごいね、タマス。
シャロン・ヴァン・エッテンとの出会い。Pastel Recordsの寺田さんとの再会。特に2007年の奈良公演でお世話になった寺田さんとの再会をタマスはとても喜んでいました。あれからふたりともお子さんが生まれて父親となったので、当然のように子どもの話になるのですが、「〜は日本ではどうなの?」と子どもネタをぼくに振られても・・・。「そんなのぼくが知ってるわけないじゃん」というと、「ごめんごめん」。
ぼくは兵庫県出身なのですが、この夜はぼくの中学や高校のときの友人から、大学の同級生でいまは京都で働いてる友人たちも来てくれて、再会を楽しみました。さらにはぼくの両親からいとこまでも。兄もスタッフとして東京から同行していたので、大崎家の割合が会場ぜんたいの5%を占めたという(笑)
この日もオープニング・アクトはキム・ビールズ。かわいいシャロン・ヴァン・エッテンが見てるからでしょうか、持ち時間が初日より長いからでしょうか。なんだか張り切っていたように見えました(笑)実際は、イギリス時代の友人が観に来てくれてたからっていうのが正解。そう、キムはお父さんがイギリス人のハーフなのです。タマスとアンソニーの英語はけっこうわかるのに、キムのアクセントはぼくにはちょっと聴き取りにくかったです。
というわけで、調子をあげてきたキム兄の演奏はこの日も評判がよかったのですが、だいぶ時間をオーバーしてましたね(笑)。ちなみにこの日もヴィデオを撮ってたのですが、そのことを後で彼に告げると、「ええっ!知ってたらなんか変なことやったのに!」って・・・(笑)若いネイサンがバンマスとしてしっかりまとめていた前回に対して、同い年(たぶん)のキムはムードメイカー枠のようですね。
2番目はシャロン。アコースティック・ギターの弾き語り。1stの1曲目「I Wish I Knew」でスタート。だいすきな曲だったのでこれはうれしい。タバコを手に持っているアー写のイメージがあったので、最初は怖そうな人だったらどうしようかと恐れていたのですが、実際に会ったら小柄でかわいらしいシャイな女の子でした。ぼくのような弱腰の文系男を敬遠させてしまうので、あのアー写は金輪際使わないほうがいいですよ!(笑)
寺田さんに習っていた日本語によるキュートなMCで会場をほのぼのとした気持ちで包み込みますが、彼女が歌い出すとすぐに空気が変わるのがわかります。
「ハッピーな曲はないの。ゴメンナサイ」と彼女が言うように、悲しみが滲みながらも凛とした歌声はとても独特なものです。秋にリリースされた2ndアルバムでのバンド・サウンドよりも、このライヴのようなフラジャイルな弾き語りのほうが個人的には好みです。
余談ですが恥ずかしさからか正面を向いて演奏できないほどシャイな彼女はライヴの合間にも物販ブースにいる寺田さんのほうをチラチラと見ていました。ぼくはその隣にいたのですが、あれはもしかしたらぼくのことを見ているんじゃないかと期待したりしなかったり・・・男ってバカですね(笑)
その後、東京の近江楽堂でのシャロンのツアー・ファイナルも観ましたが、ぼくは京都公演のほうがすばらしかったと思います。なぜかというと寺田さんの存在によって、シャロンはほんとうに安心して演奏することができたから。そういう関係ってすばらしいと思います。ぼくもアーティストとそういう信頼関係をいつも築いていきたい。
シャロンとタマスのセットチェンジの時間を使って、『the houses there wear verandahs out of shyness』の上映。みんなけっこうちゃんと観てくれていたのがとてもうれしい。
そして、タマス・ウェルズ。この日は「マイ・ネーム・イズ・タマチャン」が飛び出しました!シャロンの上手な日本語MCをみて、負けられないと思ったかどうかは不明ですが。
スターティング・ソングはソロでの「Signs I Can’t Read」。またしても意外なはじまりです。そのまま「From Prying Plans into the Fire」を演奏し、キムが登場して、「Fine, Don’t Follow a Tiny Boat For a Day」。キムは例のベルも初日よりうまく演奏(?)できてましたよ。
その後は初日と同じセットリストで進められて行きます。この日、ぼくはステージの近くで観ることができたので、彼らの表情がよりはっきりと見えました。主催ではないので、初日の100倍は気楽に。タマスのいつもの半目開きで半笑いで歌う姿は不思議な魅力を持っています。ただこの日はさすがにその表情からは疲れの色が感じられました。MCの量も初日より少なかったかな?
アンソニーのピアノ・ソロ「A Dark Horse Will Either Run First or Last」。この日はオーストラリアから持って来たキーボードの演奏でした。yasさんのブログにも書いてありましたが、この曲を紹介するときに、「A Dark Horse Will Either Finish First or Last」と言っていました。初日のレコーディングを聴いてもそう言っていたので、どうもタマスはタイトルを間違って覚えているらしい(笑)そういえば、「Lichen and Bees」の前のMCでこう言ってました。
「ぼくは昔の曲のリリックに関しては物覚えが悪いんだ。ツアー前に家で練習してたときにどうしても思い出せなくて、うちにはCDが1枚もなかったから困ってたんだ。インターネットでタマス、いやタマちゃん(※言い直してました)って調べたら中国のサイトでじぶんのリリックを見つけてやったー!って喜んでたら、そのリリックがぜんぶ間違ってたんだ。だから、ぼくが言いたいのは、”中国のウェブサイトは信じるな”ってことだね」
リリックどころか、タイトルも忘れるようです。この男は(笑)
むしろリリックを忘れたんだったらぼくに言えばメールで送ってあげたのにねぇ・・・。
アンソニーのピアノのソロのあとに「Valder Fields」というのは決まりごとのようですね。タマス・ウェルズを代表するこの名曲をみんなが待ち望んでいることは彼自身もよくわかっているはずなのに、「次は”Valder Fields”です」「キターッ!」っていうのが嫌なのかは知りませんが、いつもほんとうにさりげなく歌うのです。それは2007年の最初のツアーのときから変わりません。
この曲をセットリストから外すのは一生ない気がしますが、やりかたは変えなさそうですね。確認したわけではないですが、たぶん彼のなかではこの曲が一番好きというわけではないのでしょう。ビートルズの「Nowhere Man」を今回のツアーで歌わなかったのも、もしかしたら同じような理由からかもしれないですね。
いずれにせよ、名曲は名曲。今回のツアーで初めて「Valder Fields」の完成版が披露されたことはぼくとしても感無量でした。まあ、この夜は一カ所ミスがありましたけどね(苦笑)
「次の曲はミャンマーでレコーディングしたんだけど、ギターとバンジョーと、たくさんの手拍子が入ってるんだ。ミャンマーの人たちが手拍子してくれたかわりに、京都のやさしいみんなが手拍子してくれるといいな」
と、手拍子の催促をして「For the Aperture」。昔は手拍子されると演奏しにくいみたいなことを言ってたのに、タマスも成長したんだな〜と、完全に保護者目線です。なごやかな雰囲気でこの夜いちばんの盛り上がりのまま本編終了。
アンコールはタマスによる「An Organisation for Occasions of Joy and Sorrow」のピアノ・ソロから「Grace and Seraphim」のギター弾き語り。前回のツアーの自由学園明日館講堂でのファイナルで一度だけ演奏したこの曲は、溺死した少女の悲劇を歌ったもので、ライヴ前に上映した映画の内容がここにつながります。
「見ていて。この不器用な悲しみをぼくはもうすぐ背負うことになるから/手を振ってさよならをしよう」(Grace and Seraphim)
いつも悲しみを歌いながらも直接的に「悲しみ」という単語(ここではgrief)を彼が使うことは非常にまれです。喪失と哀悼。この曲はそのことを歌っていると思われますが、このレクイエムを聴くとぼくはいつもじぶんが死んだときのことを想像してしまうのです。また聴けてよかった。
アンコールのラストは「I’m Sorry That the Kitchen Is on Fire」。東京公演にお越しのみなさんはいつもの「友だちのキッチンが火事で大変」っていうネタを話さなかったとお思いでしょうが、実は京都で話してたのです(笑)
ちなみにあるタレコミによると、西友の某店でこの曲がよく流れているとのことで、有線だと思いますがなかなかのブラックユーモアだなと感心したことがあります・・・と、そういえばこの話をタマスにするのを忘れていました!・・・まあ、いいや。
タマス・ウェルズとシャロン・ヴァン・エッテンの共演はお互いにとって、そして、お互いのファンにとってすばらしいものだったと思います。ほとんど奇跡的と言ってもいいでしょう。この組み合わせのライヴが行われることはおそらくもう二度とないでしょう。そんな二度とは訪れない夜を届けることができたことはぼくらにとって大きな喜びでしたし、シャロンの後に誰も帰らなかった京都のお客さんもみんなすばらしかったと思います。
疲れているように見えたタマス。その理由に気がついたのは終演後でした。打ち上げでシャロン・ヴァン・エッテンご一行とともに、近くのお好み焼きへ。すごい勢いで食べるタマス!なるほど、お好み焼きが足りなかったのかもしれませんね(笑)そうか、ぼくらはきのうの夜になんとしてでも彼のソウルフードであるお好み焼きを食べるべきだったのかもしれません・・・。「かつおぶしがダンスしてるみたいだろ」と、キムに話すアンソニー。岡山から来てくれたお客さんがおみやげできびだんごをくれて大喜びのタマス。ある悲劇が彼を襲うことになるのですが、それはまた次回。
※京都公演のライヴ中の写真は後藤圭孝さんにお借りしました。
set list 2010.12.04 @ 京都UrBANGUILD
1. Signs I Can’t Read
2. From Prying Plans into the Fire
3. Fine, Don’t Follow a Tiny Boat For a Day
4. When We Do Fail Abigail
5. The Opportunity Fair
6. Reduced to Clear
7. Open the Blinds
8. Lichen and Bees
9. True Believers
10. Your Hands into Mine
11. England Had A Queen
12. Vendredi
13. The Crime at Edmond Lake
14. A Dark Horse Will Either Run First or Last
15. Valder Fields
16. Writers from Nepean News
17. For the Aperture
[encore]
1. An Organisation for Occasions of Joy and Sorrow
2. Grace and Seraphim
3. I’m Sorry That the Kitchen Is on Fire
Tamas Wells – The Crime at Edmond Lake (Live at UrBANGUILD)
【Tamas Wells Japan Tour 2010 後記(前編:12/3東京)を読む】
【Tamas Wells Japan Tour 2010 後記(後編:12/5東京)を読む】
Tags: Tamas Wells
This entry was posted on 2010年 12月 18日 at 23:08 and is filed under diary, Tamas Wells. You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed. You can leave a response, or trackback from your own site.
12月 18th, 2010 at 23:57
yas says:今回唯一観られなかった京都公演、これを読んで実際に観たような気分に浸れました。ありがとうございます。前編ももう3、4回は読み返しましたが、この頁にもこれから何度も来てしまいそうです。ちなみに、僕の記憶に間違いなければ、キムはタマスやアンソニー達よりも結構若かったはずですよ。
12月 21st, 2010 at 11:32
sin says:コメントありがとうございます。
ついつい長くなってしまいましたが、長くても読んでいただけるのはうれしいです。
キムはぼくのひとつ上で30歳ですね。
ネイサンもああ見えて若いのですが、彼がぼくのひとつ上かふたつ上か忘れちゃったのです・・・。