『Ending Music』セルフライナーノーツ
「この世を去る60分前に聴く最後の音楽」をコンセプトにしたコンピレーション・アルバム『Ending Music』。発売からすでに2週間ほどが経ちましたが、この作品の選曲者として、ディレクターとして、すこしだけ記したいとおもいます。
経営がうまくいっていない企業ならたぶん漏れなくなんらかの「企画」を考えさせられるとおもいます。この作品もそういうかんじで会社から求められて作ったものですが、構想自体は何年も前からありました。2014年に江戸川橋の水道ギャラリーで「うつくしいおんがく展」という企画をやらせてもらったことがあります。100枚のCDを展示し、そこには内容の説明はいっさい記載せずに、その作品を聴いて浮かんだことばを記しました。そのときガレス・ディクソンの『Collected Recordings』に記したことばが、たぶんこのコンピのはじまりです。そこにはこう書かれていました。「ぼくが死んだときは、これを聴いておもいだしてください。」
Gareth Dickson 「If I」。これがもともとのはじまり。
正直、実際に死ぬときに音楽を聴ける状況にはいないことは当然だとおもうので、このコンセプトに対して頭がおかしいとおもわれるかたもいらっしゃることでしょう。けど、死は人生のさいごに訪れるできごとであり、それはとても個人的で、とてもおだやかなものであってほしいというおもいから、それにふさわしいうつくしい音楽を集めました。今回はインストですが、もしかしたらいずれヴォーカルトラックでおなじ内容のコンピをつくることもあるかもしれません。当然、みずからの死の経験なんてないですし、死にちかづいた経験もほんのごくわずかなので、これはもうほんとうに個人的な作品ですが、コンセプトがじぶんの感性に合う合わないはともかく、とにかく安らかさと穏やかさを必要としているひとの60分間にとってたいせつな役割を果たしてもらえればいいと願っています。
ふつうディレクターとしてコンピをつくるときは、だれか別の選曲者がいて、楽曲の許諾など実務的なことしかタッチできません。だから、内容の企画から選曲、アートワークに至るまで100%じぶんの裁量でできるのはとてもたのしい作業でした。今回選んだ18曲は、いずれもこの10年間で関わりがあるレーベルやアーティストから借りています。条件が合わないために諦めた曲もなくはないですが、ほぼ満足のいく内容です。
ラストを飾るのはピーター・ブロデリックの「A Beginning」。このポジションはこのコンピを考えるまえからあらかじめ決まっていたと言えます。昨年の来日ツアーのファイナルのアンコールのいちばんさいごにこの曲を演奏されましたが、たぶんそのときからこの曲はこのポジションにふさわしいと思い描いていました。「この世を去る60分前に聴く最後の音楽」ですが、このコンピは実際は61分ちょっとあります。つまり、「A Beginning」の途中でこの世を去る、というイメージです。ささいなことですが。
アートワークは生平桜子さんのドローイングをお借りしました。Liricoの白鳥ロゴは鳴かない白鳥が死をまえにしてうつくにしい歌をうたうという「スワンソング」の言い伝えからきていますが、そのイメージに彼女のドローイングはとてもフィットしました。パッケージの出来上がりもうつくしいものに仕上がっているので、ぜひ手にとっていただけたらうれしいです。
なお、ウェブショップの購入特典として、Liricoのカタログのヴォーカルトラックから同コンセプトで選んだコンピ『swan songs』のCD-Rをプレゼントしています。
詳細:http://www.inpartmaint.com/site/20902/
This entry was posted on 2017年 8月 2日 at 19:36 and is filed under diary, Lirico. You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed. You can leave a response, or trackback from your own site.