アストル・ピアソラ生誕100年の年にリリース!
タンゴの名曲を注目の作曲家/ピアニスト、三枝伸太郎がアレンジ。ヴァイオリン、チェロ、ピアノのトリオが奏でる新しいタンゴの世界。コロナ禍に革新し続ける三枝伸太郎のトリオサウンド。待望の新録!

 

本人名義のアルバム制作としては10人編成のオルケスタに集中してきた三枝伸太郎。しかし今回はコロナ禍ゆえの、小編成、かねてよりあたためてきたトリオ・サウンドが形となる良いタイミングとなった。
アルバムのうち5曲はタンゴのスタンダード。三枝によって編曲されたこれらの名曲は、タンゴの奏法を基調としながらもクラシック、ジャズ、現代音楽の香りも漂わせる。オリジナルの5曲はどれも美しいメロディと構成美に富んでおり、こちらもやはりジャンルにとらわれない独自の音楽観に溢れている。特に⑤「Boatman’s song」はいわゆる舟歌であるが、この世ではないどこかの響きをイメージさせるような口笛、アナログシンセ、さらには波音も加わりインパクトのある曲となっている。
 
三枝伸太郎(ピアノ)
吉田篤貴(ヴァイオリン)
島津由美(チェロ)
東俊介(#1.3.5.9 口笛)
 
 
 

<楽曲解説(文:三枝伸太郎)>
01. Naranjo en flor – ナランホ エン フロール (Virgilio Expósito)

邦題、花咲くオレンジの木。過ぎ去った人生や過去の恋愛に思いを馳せ、生きることの苦しさを歌う。呆然と立ち尽くすようなイメージから、人生なんてそんなもの、というような軽やかな口笛のパッセージ、メロディとちぐはぐな五拍子の伴奏と、あてもなく彷徨うメロディーとオブリガート。今作の口笛は作曲家の東俊介くんが吹いてくれている。
 

02. Desde el alma – デス デ エル アルマ (Rosita Melo)

心の底から、というような意味。アルゼンチンのVals(ワルツ)の中でも非常に有名な曲だが、作曲者Rosita Meloは作曲当時まだ14歳だったとのこと。このアルバムの個人的なコンセプトの一つでもある、スタンダード曲に大胆なリハー モナイズを施す試みの、最初期にアレンジした中の一曲。フォーレのことを考えていた記憶が。
 

03. Milonga de mis amores – ミロンガ デ ミス アモーレス (Pedro Laurenz)

邦題、我が愛のミロンガ。ミロンガとは軽快な二拍子のスタイルを指す(時として軽快でない場合もある。アストル・ピ アソラは非常に遅いミロンガを好んで書いていた)。メロディーとハーモニーが乖離しているような感覚をこのアルバムでは大事にしている。伴奏、というよりは、並走しているようなニュアンス。この曲にも冒頭に口笛が入っている。
 

04. Milonga libra – ミロンガ リブラ (Shintaro Mieda)

オリジナル曲。天秤座のミロンガ、というような意味。こちらは遅いタイプのミロンガである。かなり昔に描いたもので、なぜ天秤座とつけたのかもう覚えていないが、このトリオの編成に書き直すに当たって、非常に遅い、ほとんど止まりそうなテンポのセクションを冒頭に付け足した。後半にはVn吉田篤貴くんの素晴らしいソロから、Vc島津由美さんの重音による迫力のエンディングへ繋がっていく。
 

05. Boatman’s song – ボートマンズ ソング (Shintaro Mieda)

クラシックでよく使われる舟歌というスタイルで書かれたオリジナル曲。過去と現在をつなぐ、昔の曲に新しいハーモニーをつけてみる、ピアノトリオという、もしかしたらもう時代遅れな?スタイルでやってみる、しかもそれはタンゴの 編成ですらなく、、、というようなことを考えていた。作曲時、ずっとJevetta SteeleのCalling Youが頭の中で流れてい た。冒頭には口笛、エンディングには浜辺の音とアナログシンセのノイズが挿入されている。彼岸のイメージ。
 

06. 三月のショーロ (Shintaro Mieda)
07. 三月のショーロ 2 (Shintaro Mieda)

東日本大震災のことを思って直後に書いた曲。本当は三番まで書こうとずっと思っているのだが、全然書けない。楽想としては投げ出されたように終わるのだけど、書けないので仕方がない。。
 

08. A Lull in the rain – ア ラル イン ザ レイン (Shintaro Mieda)

元々はピアソラがやっていたキンテートと同じ五人編成のために描いた曲で、雨の止み間に、というような意味。このタイトルは当時のメンバーがつけてくれた。このアルバムの中では飛び抜けて明るい。当時ビクトル・ラバジェンのようなスタイルの曲を書きたかったのだが、今聴くとあまりそういう感じはしないかも。
 

09. Uno – ウノ (Mariano Mores)

アルゼンチンタンゴの中でも飛び抜けて有名な曲の一つだが、歌詞があまりにも難解なので解説は差し控える。スタン ダード曲に大胆なリハーモナイズを施す試みの、やはり最初期にアレンジした中の一曲。フェデリコ・モンポウとモートン・フェルドマンを混ぜたようなハーモニーをイメージしていた。やはりメロディが伴奏と乖離し、亡霊のように聞こえたい、というモチベーション。
 

10. Quedémonos aquí – ケデモノス アキ (Héctor Stamponi)

タイトルを直訳すると、ここに居よう、というような意味。タンゴにしては珍しく歌詞が前向きな内容の曲。このアルバムの中ではアレンジもいわゆるタンゴののスタイルに最も近いかもしれない。はっきりとタンゴ・スタイルの4ビートが顔を出す場所もある。