マルチな方向に伸ばしたアンテナが捉えた現在進行形の音楽
インタビュー・文/坂本信
――しばらくの間アコースティックなジャズ・カルテットでの活動が続いていましたが、今回は2014年に同時発売になった『My Life Starts Now』と『The Los Angeles Improvisations』以来、久しぶりのビート・ミュージックの作品が発表になりましたね。
マーク・ジュリアナ(以下MG):ウン。ジャズ・カルテットで活動する間に、ビート・ミュージックでの方向性をより深く探る準備も出来ていたからね。今回は2、3か月という、比較的短い間にまとめて作曲して、ミュージシャンたちに僕の意図をより正確に伝えるために、デモも細かい部分まで作り込んだんだ。
――『My Life~』も『The Los Angeles~』も、固定メンバーのバンドによるレコーディングでしたが、今回は曲ごとにいろいろなミュージシャンを起用していますね。
MG:それぞれの曲に見合うスタイルのミュージシャンに来てもらったんだ。ビート・ミュージックは10年ぐらい続けているプロジェクトで、その間にいろいろなミュージシャンに参加してもらっている。だから、今回も彼らをフィーチャーしたいと思ったんだ。新作の曲は僕が全部書いたけれど、過去には彼らと一緒に曲作りをしていて、そういった共同作業の経緯も反映させたかったしね。もちろん、ミュージシャンとしてもみんな素晴らしいし、彼らに参加してもらえて嬉しいよ。ドラムスやパーカッション、ほとんどのベース・パートをブルックリンのバンカー・スタジオでレコーディングした後、それ以外のパートはニューヨークの他のプライベート・スタジオで重ねたんだ。
――ニューヨーク在住の日本人のキーボード・プレイヤーで、『My Life~』にも参加していたBIGYUKI(当時はYuki Hirano名義)も3曲に参加していますね。彼とはどんなきっかけで出会ったのですか。また、あなたは彼のどんな点がユニークだと思いますか。
MG:BIGYUKIと最初に会ったのはニューヨークで、たしか2012年頃だったと思う。『My Life~』に参加してもらって以来、機会あるたびに一緒に仕事をしているよ。楽器が上手い人はたくさんいるし、楽器を熟知していてサウンド作りが得意な人もたくさんいるけれど、その両方の能力を最高のレベルで兼ね備えた人は数少ない。BIGYUKIは、その数少ないキーボード・プレイヤーのひとりなんだ。それに加えて、彼は独特なリズム感を持っている。ドラマーの僕にとってはそこも重要で、彼と一緒に演奏するのはとても楽しいよ。
註:この取材後に決定した、ビート・ミュージックの7月24日(東京)、25日(大阪)のBillboard Liveでの来日公演には、BIGYUKIも参加することになった。ちなみに、もうひとりのキーボード・プレイヤーであるニコラス(ニック)・セムラッドも、新作には参加していないが、マークとはたびたびコラボレートしている。
――あなたは以前から、1990年代半ば頃に登場したエイフェックス・ツインやスクエアプッシャー、ルーク・ヴァイバートといった、初期のエレクトロニカのアーティストに影響を受けたと公言していますが、今回のアルバムには、それがどのような形で反映されていると思いますか。
MG:シーケンサーなどの機材が今ほど発達していなかった当時は、扱える音源の数も限られていた。だから、個々のサウンドにより説得力があったと思うんだ。僕が今回のレコーディングに使ったドラム・キットも、基本はベース・ドラムにスネア・ドラム、ハイ・ハットというごくシンプルなもので、その限られたキットから可能な限り豊かな表現を引き出そうとしていた。いろいろ工夫も必要だったけれど、そういう状況が多くのインスピレーションを与えてくれたんじゃないかな。自分がエレクトロニカの方向性を探る時には、シンセサイザーを使う可能性が無限にあるのがかえって問題になることがある。何をやったらいいのかわからなくなってしまうからね。でも、そこに何らかの制約を設けることで、自分のやるべきことがはっきり見えてきて、クリエイティブな状態になれるんだ。リスナーにとっても、音数が少なければ鳴っているひとつひとつの音を意識しやすいだろうし、自分自身のイマジネーションも広げられる。音楽に多くの要素を詰め込み過ぎると、リスナーが自由に解釈する余地が無くなってしまう。だから、リスナーのためにも余白を残しておくことが大事なんだ。
――リスナーをクリエイティブにする余白も、初期のエレクトロニカの魅力だったというわけですね。
MG:そうだと思う。あと、今でもエレクトロニカでは特定のパターンを延々と繰り返す手法がよく使われるけれど、僕がそれをやる時には、はっきりとした意思をもってやっている。意図的にそれをやることが新たな可能性になったり、トランス効果が生まれたりするんだ。僕が強く影響を受けたレゲエもそうで、パッと聴いただけではどの曲も同じようなビートやテンポのように思えるかもしれないけれど、実はそこにこそ、あの音楽の強い説得力が秘められているんだ。
――この新作に限らず、Halo Orbitのような他のプロジェクトでも、パワフルなロック・スタイルの演奏も聴かれますが、ロックにはどのような形で影響を受けていますか。
MG:ロックは1995年、僕が15歳の時にドラムスを叩き始めるきっかけになった音楽なんだ。その頃、MTVなどのテレビ番組では、ニルヴァーナやパール・ジャム、サウンドガーデンといったバンドのヴィデオを流していた。僕それに憧れて、彼らの音楽に合わせてドラムスを叩く練習をしていたんだ。だから、こうした音楽からの影響は、僕の核心部分になっている。必ずしもそれが今の演奏に明白な形で現れるわけじゃないけれど、ジャズやエレクトロニカをやっている時でも、その影響が生きているのは間違いないよ。具体的なスタイルというよりもむしろ、エネルギー感みたいな形でね。
――新作のティム・レフェーヴ(b)やジェイソン・リンドナー(key)などと一緒に、デイヴィッド・ボウイーの白鳥の歌となった『★』(2016年)に参加していますが、ボウイーとの仕事で得た最大のものは何でしたか。
MG:彼は、いちど立てた目標に対して決して妥協しなかった。でも、明確な目標に対して妥協しないいっぽうで、他の人たちのアイディアや協力を喜んで受け入れていたんだ。一見、相矛盾することのようだけれど、彼はそれを見事に両立させていたのがとても印象的だったね。新作の曲は全部自分で書いたけれど、必用とあれば参加ミュージシャンにそれぞれのアイディアを盛り込んでもらう余地を残していたのも、一部には彼の影響があったんじゃないかな。
――なるほど。今日はいろいろなお話をありがとうございました。来日公演も楽しみにしています。
MG:どうもありがとう。僕も楽しみにしているよ。
マーク自身によるSpotifyのプレイリストはこちら:
LIVE INFORMATION
Mark Guiliana’s Beat Music
マーク・ジュリアナ’s BEAT MUSIC
21世紀のジャズ・リズムを更新し続ける鬼才マーク・ジュリアナが主宰するビート・ミュージックの来日公演。
ブラッド・メルドーとのエレクトロニックデュオ、メリアナでシーンに衝撃を与えた注目のドラマー、マーク・ジュリアナが最新作を携えて5年ぶりに登場。ユニークで妥協を許さないドラムスタイルで、世界的に高い評価を獲得してきたマーク・ジュリアナ。2013年『Beat Music』、2014年『My Life Starts Now』など継続的にアルバム制作・発表を行い、今年4月には最新作『BEAT MUSIC! BEAT MUSIC! BEAT MUSIC!』を日本先行リリースしている。クリス・デイヴ、ジャマイア・ウィリアムス、ジヴ・ラヴィッツらと並び現代最高峰のドラマーとして呼び声が高い、彼のステージはファンならずとも必見。
【ビルボードライブ東京】(1 日2 回公演)
7/24(水)1st ステージ 開場17:30 開演18:30 / 2nd ステージ 開場20:30 開演21:30
サービスエリア¥8,000-
カジュアルエリア¥7,000-(1 ドリンク付き)
※ご飲食代は別途ご精算となります。
[ご予約] ビルボードライブ東京 03-3405-1133
〒107-0052 東京都港区赤坂9 丁目7 番4 号 東京ミッドタウン ガーデンテラス4F
【ビルボードライブ大阪】(1 日2 回公演)
7/25(木)1st ステージ 開場17:30 開演18:30 / 2nd ステージ 開場20:30 開演21:30
サービスエリア¥7,500-
カジュアルエリア¥6,500-(1 ドリンク付き)
※上記に加え別途ご飲食代が掛かります。
[ご予約] ビルボードライブ大阪 06-6342-7722
〒530-0001 大阪市北区梅田2 丁目2 番22 号 ハービスPLAZA ENT B2
◎メンバー
MEMBER
マーク・ジュリアナ / Mark Guiliana (Drums, Electronics)
ビッグユキ / BIGYUKI (Keyboards, Synthesizers)
ニコラス・セムラッド / Nicholas Semrad (Keyboards, Synthesizers)
クリス・モリッシー / Chris Morrissey (Electric Bass)
<DISCOGRAPHY>
マーク・ジュリアナ『ビート・ミュージック!ビート・ミュージック!ビート・ミュージック!』