〜まるで何世代にも渡って受け継がれてきた親しみのある歌声のよう〜
ジャズとモンゴル伝統音楽のエレガントな融合

夕暮れ時のほんの一瞬、空が鮮やかな琥珀色に染まる。ドラマチックな色彩の輝き、昼と夜の両方に属する瞬間。モンゴル生まれでミュンヘンを拠点に活動するシンガー・ソングライター、エンジのニューアルバム『Sonor』は、この鮮やかで儚い世界の中で作られました。
 
賞賛の嵐を浴びた前2作『Ursgal』(2021年)と『Ulaan』(2023年)に続く4thアルバム。本作は、エンジの個人的な進化と、モンゴルとドイツ、2つの世界の間で生きることに伴う複雑な感情の反映です。このアルバムのテーマは、文化の狭間にある居場所のない感覚を中心に展開されますが、それは対立の原因としてではなく、成長と自己発見のための空間としてです。彼女は伝統的なモンゴルのルーツとの距離が、いかに自らのアイデンティティを形成してきたか、そして故郷に戻ることで、いかにこうした変化への意識が高まったかを探求しています。

 
本作において、エンジはアーティストとして進化を続け、サウンドはより流動的で親しみやすいものへと拡張しています。Elias Stemeseder (ピアノ)、Robert Landfermann(コントラバス)、Julian Sartorius(ドラム)、そして前2作でもお馴染みの、共同作曲者でもあるPaul Brändle(ギター)といった世界的に名高いジャズ・アーティストをバンドに迎え、ジャズ・スタンダード「Old Folks」を除いて全曲モンゴル語で歌われるなど、エンジの音楽的基盤は揺るぎないですが、メロディーとストーリーテリングに新たな明晰さを加えることで、より親しみやすい内容となっています。それは単にスタイルの変化というだけでなく、彼女の歌声の深化を反映したもので、深みを失うことなくアクセシビリティを受け入れ、彼女の歌がより普遍的なレベルで共鳴することを可能にしています。


 
『Sonor』では、モンゴルの伝統的な歌「Eejiinhee Hairaar」(「母の愛をこめて」)に新たな命を吹き込みました。日常生活に溶け込んだ音楽、何世代にも渡って受け継がれてきたメロディー、このイメージに本作の精神が凝縮されています。エンジは単に伝統を再認識しているのではなく、故郷の感覚や、遠くから見て初めてその意味がわかる小さな喜びを抽出しています。親が口ずさむ親しみのある歌のように、彼女の音楽は、ひとつの場所に縛られるのではなく、私たちを形作る感情や記憶といった「帰属」の本質をとらえています。
 
エンジはリスナーを彼女の経験の風景を旅する旅に誘い、文化の架け橋となり、変化を受け入れ、私たちの人生を定義する移り変わりの中に美を見出します。モンゴルとドイツ、伝統と革新の間を行き来し続ける彼女の音楽は、世界の狭間で生きることの豊かな体験と、多面的なアイデンティティを受け入れることから生まれる芸術の証です。

 

 

Track listing:
1. Hungun
2. Ulbar
3. Ergelt
4. Unadag Dugui
5. Gerhol
6. Eejiinhee Hairaar
7. Zuirmegleh
8. Much
9. Neke
10. Old Folks
11. Bayar Tai