Archive for the ‘disc review’ Category
We Are The Willows『Picture (Portrait) 』〜亡き祖父母が交わした350通の手紙〜
ミネアポリスのインディー・ロック・バンドWe Are The Willowsのニュー・アルバム『Picture (Portrait) 』。アルバムとしては2009年の『A Collection Of Sounds And Something Like The Plague』以来、5年ぶりとなる作品。当時はシンガー・ソングライターPeter Millerのソロ・プロジェクトでしたが、その後メンバーが増えて、現在は6人編成です。
このバンドの特徴はなんと言ってもPeter Miller(写真いちばん左)の(見た目に似合わぬ)美しい歌声。中性的美声男性ヴォーカルを多数擁するLiricoも太鼓判を押すその歌声は、少年のような、少女のようなフラジャイルさをたたえています。
本作『Picture (Portrait) 』はPeterの祖父母が第2次世界大戦時にやりとりした350通の手紙からインスパイアされたとのこと。1942年にふたりは出会ったものの、祖父は大西洋に派遣。その後、お互いによく知らないまま4年にわたって手紙が育んだ愛...とてもロマンティックでエモーショナルな傑作です。
Bandcampでダウンロード販売中:https://wearethewillows.bandcamp.com/
Paranel 『タイムリミットパレード』に寄せて
Paranelはぼくがhueをはじめた初期(2006年くらい)に知り合い、同い年ということもあって親睦を深め、それ以来、遠くもなく、近くもない、絶妙の距離感でつきあってきました。ぼくにとっては仕事という利害関係にとらわれない意味においてアーティストのなかでは友人と言える数少ないひとだと思っています。
そして彼はLow High Who?というレーベルを立ち上げ、ぼくはhueをやめ数年がたち、LHW?はいまや独自のポジションを築き上げる注目のレーベルにまで成長しました。LHW?が大きくなればなるほど、レーベルオーナーとして、プロデューサーとして、デザイナーとして、あらゆる役割をひとりでこなす彼がソロ・アーティストとしてじぶんの音楽を作る時間は限られていきます。端からみているとその点がぼくは常々残念に思っていたわけですが、こうしてParanelのニュー・アルバム『タイムリミットパレード』がリリースされたことをうれしく思います。
セルフライナーノーツを読んでいただければ、作品についてぼくがあれこれ書く必要はないです。この作品をはじめて聴かせてもらったのは、ちょうどタマス・ウェルズの新作『On the Volatility of the Mind』ばかりをずっと聴いていた時期のこと。それからはこれらふたつの作品を交互に聴いています。どちらの作品も「孤独」について歌われています。悲しみに対するアプローチは違うけど、いずれも最後に収録されている、Paranelの「ひとり」とタマス・ウェルズの「I Left That Ring on Draper Street」を聴いた後の余韻はとても似ていると思いました。さらにはラディカル・フェイスの『The Branches』の最後の曲「We All Go the Same」ともよく似ている気がします。繊細で美しく、少し怖くもあるいずれの曲も、「じぶんがいなくなった後の世界」を想像させるからでしょうか。その感覚は個人的に長い間抱いてきたものと似ていたので、「ひとり」という曲は聴いていてなんだか懐かしい気がしました。
10代が多いと言われるLow High Who?のリスナーの子たちがこの作品にどんな反応をしますのかがいまいちばん興味があります、とか書くとおっさんくさいですね…でも、ぼくは単純に、いまこのタイミングでこれが聴けてよかったです。
[album of the month 2012.02] From the Mouth of the Sun 『Woven Tide』
2月の [album of the month] は文句なしにJasper TXとAaron MartinによるFrom the Mouth of the Sunのデビュー作。まだ先は長いですが、むしろことしを代表する1枚になるだろうと確信しています。
メロディーを奏でるむせび泣くようなチェロの嗚咽と、慎ましやかなピアノのすすり泣きが漆黒のノイズ・ドローンとともにアルバム・タイトルのように織物をつむいでいく一大サウンドスケープ。胸騒ぎが収まらない、「Like Shadows In An Empty Cathedral」と「A Season In Waters」の圧倒的な緊張感の果てに訪れる「Snow Burial (While Blue Skies Gather)」の嘘のような安息。すべての美しい音楽はレクイエム。
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[album of the month 2012.01] Misophone『Songs from an Attic』
カタログとウェブの更新をおえた毎月上旬はいちばん手が空く時期なので、この時期をつかって毎月 [album of the month] を書いていこうとふと思いました。あんまり強くオススメするわけじゃないけど、個人的なメモとして。つづくかわからないけど、とりあえず1月分です。
ブリストルの謎のデュオMisophoneの新作。まるでもう何十年も前から音楽をつくりつづけているような雰囲気を漂わせて、けど、巨匠のような威厳は一切なくて、近所の屋根裏部屋にこもってこっそり何年も作りつづける奇人のような佇まい。
作家であるWalshのリリックは見事で、ときにまどろっこしく、皮肉っぽく書かれており、Sの曲は相変わらず華やかでごちゃごちゃしていて、このひとたちの変わらなさに安心感すら感じてしまうのです。
ムーンドッグとアメリカン・フォークとジプシー・ミュージックを溶け合わせた異形のポップ・ソングス。聴けば聴くほど不思議なサイドショー・ミュージック。さわやかさのなかに暗さを閉じ込めた彼らのサウンドは偉大だと思います。名曲「The closest I’ve ever got to love」はぜひ聴いてほしいです。
Dakota Suiteニュー・アルバム『The Side of Her Inexhaustable Heart』〜強すぎる気持ち・強すぎる愛〜
Dakota Suiteのことし3作目となる最新アルバム『The Side of Her Inexhaustable Heart』がGlitterhouseから11月にリリース。当初アナウンスされていた、ヴォーカル・アルバム『You Can Leave But You’ll Never Make It Home Again』ではなく、クリス・フーソン、デヴィッド・バクストンと、パリのピアニスト、カンタン・シルジャクとのコラボレーション作品『The Side of Her Inexhaustable Heart』が先にリリースされることになりました。
クリスの妻のジョアンナに捧げられているのはいつものことですが、どうやらいつも以上に彼女への強すぎる感情に溢れた作品のようです。さらにパート1〜4に別れた組曲「Yes We Will Suffer」は東日本大震災の際に日本を襲った津波に対するレスポンスとして書かれており、レクイエムの感じは強くなっています。まあ、レクイエムでないDakota Suiteの作品なんてないと言えるかもしれませんが、
ヴォーカルも入っていますが、ほとんどがインストで、個人的には『The End of Trying』や『The North Green Down』というインスト作品やライヴ盤『Vallisa』の静かな雰囲気を踏襲した、Dakota Suiteのなかでも異色のヴォーカル作品だと思いました。
例によってこの作品に寄せたクリス・フーソンのコメントがすべてを表しています。日本語に訳してみたのでよければ読んでみてください。なんというか、ジョアンナさんへの気持ちが強すぎて読むのも訳すのもしんどかったです(苦笑)世の妻帯者のみなさまはどう思うのでしょうか・・・
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