Archive for the ‘disc review’ Category
13 & God『Own Your Ghost』〜6年ぶりに帰ってきました〜
ThemselvesとThe Notwistによるプロジェクト13 & Godがまさかの帰還です。
2005年の1st『13 & God』から実に6年ぶりとなる2ndアルバム『Own Your Ghost』が完成。5月にリリースされます。前作につづき、Alien TransistorとAnticonの共同リリースです。
いきなりMarkus Acherのギター弾き語りではじまるフォーキーな幕開けに驚きましたが、サウンド面では前作のエクスペリメンタル・ポップ路線を引き継いでいると言えると思います。Doseoneとスペシャルなヴォーカル・ワークはやはり存在感を示しているものの、よりThe Notwist色のほうが強い気もしますが、聞き返してみると前作も同じぐらいのバランスでした。
The Notwist周りのドイツのジャズ系ミュージシャンたちがヴァイオリン、ヴィオラ、トロンボーン、サックスなどで参加した「Death Minor」と「Death Major」の組曲が個人的には好みでしたが、各楽曲それぞれの違ったスタイルで作られており、シングル・オリエンテッドな昨今の市場を意識してからのようです。
それでも「死」や「老い」といった重々しいテーマを扱うことでアルバムとして一貫性を持たせています。メランコリックなムードは随所に訪れますが、ダークネスに包ませない、ある種の「わかりやすさ」は彼らの音楽の特徴だと言えるでしょう。6年経ってのこの安定感の良し悪しは評価の別れるところかもしれませんが、美しくポップな作品であることは間違いありません。
以下の映像はアルバムのトレーラー。
「Sure as Dept」は2005年のライヴで披露されているようです。日本でも演奏したかどうかは覚えていません。
また、pitchforkで「oldage」がフリーダウンロードできるようになっていますよ。こちらから。
なお、事故で下半身不随となったDax Personは本作でもメンバーにクレジットされています。
ちなみに日本のテリトリーはAlien Transistorです。なので、p*disもAlien Transistor盤を取り扱いますよ。
Tracklisting:
01 It´s Own Sun
02 Death Major
03 Armored Scarves
04 Janu Are
05 Oldage
06 Et Tu
07 Death Minor
08 Sure As Dept
09 Beat On Us
10 Unyoung
以下でご予約受付中です。たぶん4月下旬には入荷すると思います。
p*dis online shop : 13 & God / Own Your Ghost
Chris Weisman『Transparency』〜寒くもなく、あたたかくもなく〜
昨年Sub PopからデビューしたHappy Birthdayのメンバーでもある米ヴァーモント州ブラットルボロのシンガー・ソングライター/ギタリストChris Weisman。
昨年は他にソロ・アルバム『Tape Walk』とGreg Davisとのコラボ『Northern Songs』をリリースし、いずれもすばらしい内容でしたが、ニュー・アルバムが早くも届けられました。しかも2枚組。でも300枚限定。
アコースティック・ギターの弾き語りを中心として、随所に遊び心と実験性あるサウンドトリートメントをガジェット的に織り込むゆるやかなサイケデリアが特徴的。カセットテープ・レコーダーで録音したローファイ・サウンドが彼の静かな歌声にフィットしており、どことなく春めいた素朴なフォーク・ソングス。
「The Beatles」という曲が収録されていることからもわかるように、完全にビートルズ・チルドレンであり、エリオット・スミスのようなサッドネスも感じさせる彼の歌は弱々しく、ピッチも不安定。Sam Amidonなどもそうですが、わざと無感情に歌っているようにも思わせるのっぺりとした歌い方が逆に耳に残ります。曲自体はとてもシンプルなんですけどね。
決して注目を集めることはないでしょうが、おなじペースで何枚も作品を発表しつづけてくれるような存在だと思います。ぼくはChris Weismanの歌とともに季節を越えていくでしょう。ことしも、来年も。そのまた次の年も。
p*dis online shop: Chris Weisman / Transparency
Dakota Suite & Emanuele Errante – The North Green Down 〜亡き義妹のためのレクイエム〜
Dakota Suiteのニュー・アルバム『The North Green Down』はイタリア人アーティストEmanuele Erranteとのコラボレーション。Chris HoosonのピアノとギターにEmanuele Erranteが電子音を加え、さらに『The End of Trying』に参加していた名チェリストDavid Darlingが今回も魂の演奏を行っています。
この作品は癌で亡くなったHoosonの義妹に捧げた作品です。10年以上にわたり、サッド・ソングだけを作りつづけてきた彼によるレクイエム。
ふだんサッド・ソングばかりを聴いているようなさすがのぼくでさえこれは聴いていられません。作品に込められた感情の重さと強さがあまりにも巨大すぎて、ぼくの頭のなかの感受性の器ではこの音楽を受け入れることは困難で、いまにも壊れそうになってしまいます。この記事を書くために最後のリスニングを行っていますが、これを書きおえたら、ぼくはこの美しい作品を封印して、もう一生聴かないでしょう。
本来、オススメの作品を紹介するためのブログであり、その趣旨とはまったく異なりますが、おおげさではなくこの作品はほんとうにオススメしません。これを聴かないですむ人生のほうがずっとしあわせだと思います。
例によってChris Hooson自身が作品にコメントを残していますので、日本語訳を載せておきます。
2009年8月、ジョアンナとぼくは知らなかったことを受け入れた。そのときが義理の妹であるハンナと過ごす最後のホリデイになるということを。ハンナが癌におかされ、ぼくらから彼女を奪っていこうとしていることは知っていた。その瞬間がジリジリと近づいてきていたのだ。ぼくらは家族みんなが何年も愛していた場所、サフォークのサウスウォールドに行った。ハンナが苦痛を感じていたのはあきらかだった。海のそばにあるサウスフォールドへと戻っていくとき、「the north green」と呼ばれるサウスフォールドの一部を通った。ぼくは取り残されたような感情に打ちのめされていた。一歩進むその一歩ごとが小さな死を意味していた。彼女を失ってさびしくなることはわかっていた。
「the north green」を彼女と歩くあいだ、ぼくはきみたちがこのレコードで聴いている’north green down’のメインテーマの始まりを感じていた。そして、この音楽を彼女に捧げなければいけないと思っていた。家で録った基本のピアノのギターの曲要素をエマニュエルに送った。以前、彼のレコードを買ったぼくは、彼のなかにこの音楽の重さを感じることができて、思い描いた目的、つまりはハンナに捧げる賛美歌を作るためにふさわしい、共感する魂を感じたんだ。
ハンナは美しく、無私無欲で慈愛をもった女性だった。このレコードは彼女のためのものだ。
(2010年9月 クリス・フーソン)
デジタルはすでにリリースされ、CDは今月下旬に入荷する予定です。
p*dis online shop: dakota suite & emanuele errante – the north green down
カナディアン・インディー・ヒップホップの最終兵器Andrreの蒼すぎるデビュー・アルバム『Learn to Love』
カナダのケベックのアーティストAndrreとの出会ったのはたしか2006年のことだったと思います。
myspaceを通してぼくにコンタクトをとってきた彼は当時なんと18歳。sosoやFactorを聴いて育ったという彼の音源は、荒削りながらも間違いなく偉大な先人たちのリリカルさを受け継いだもので、ほんとうに「アンファン・テリブル」というのがぴったりでした。
その後、うたとラップの融合をコンセプトにしたhueの2作目のコンピ『Once a hue, Always a hue』(2007)を作るときに声をかけ、Pierre the Motionlessのビートによるソロ曲「Sunset And Thoughts」と、RomaとのプロジェクトAndrRomakの「Life up There」の2曲を収録しました。
それからもぼくはつねに彼に決して小さくはない期待を寄せていたのですが、AndRomakのデビュー・アルバム『Beauty is but skin deep』が出たのはすでに時代がカナダのインディー・ヒップホップを必要としなくなった感のあった2009年になってからのことでした。
昨年の3作目のコンピ『Hip Hop Hums』に収録したZoënとAndrreのコラボレーション曲「Lonely Kid」のことは以前も書きましたが、間違いなく2010年でもっとも「アンセム」という名にふさわしかったこの名曲を作り上げてくれたことで、ぼくの長年の期待に対する答えとしては十分すぎるほどでしたが、今回、初めてのソロ・アルバム、その名も『Learn to Love』を届けてくれました。
これまで彼がMilled Pavementやhueのコンピに提供した曲やAndrRomakの曲などをAndrreのすべてを詰め込んだと言ってもいい一枚。
ぼくは4年間、この作品を待っていたんだ。
時代が違えば、彼は救世主となっていたことでしょう。だけど、彼は遅すぎたのです。残念ながらこの作品が内容にふさわしいだけのポピュラリティーを得ることはたぶんないと思います。需要と供給のバランスを壊すには作品の内容だけではどうすることもできない。その圧倒的な真実を前にしてなお、ぼくはこの作品のすばらしさを伝えたい。
Zoën、Roma、Pierre the Motionlessら優秀なプロデューサーに支えられ、Nolto、Astronautalis、Nomadといったhueにとって友人たち
とも言えるそうそうたるアーティストが参加していますが、個人的には他のアーティストをフィーチャーした曲よりもAndrreのソロのほうが際立っていると思います。光り輝いていると言ってもいいでしょう。
Zoënとの「Lonely Kid」はなぜか「Learn to Hope」と名前が変わっていますが、やはりこの曲の圧倒的なカタルシス。メラネシアン讃歌のサンプリングとともに歌われる少年の叫び。何回聴いても飽きることなく、いつまでも新鮮さを失うことのないことが名曲の条件だとすれば、これは名曲以外のなにものでもない。Factorたちの「Another Tomorrow」と同等なのです。
Andrre – learn to love – Learn to hope by pdis_inpartmaint
そして、Funkenとの共作「Boys Don’t Cry」。キュアーの同名曲のAndrreなりのカバーであり、トリビュートとも言えるこの曲の爽快さ。もはやヒップホップではないけど、Andrreの音楽の決して枯れ果てることのない蒼さをもっとも表した曲だと言えるでしょう。ひとりでいくつもの声を使い分けるヴォーカルは決して表現力があるわけではないと思いますが、ひとの心をうつ「何か」を持っているんじゃないかと。
BOYS DON'T CRY – ANDRRE & FUNKEN
I can’t figure it out, I wish I was stronger
Hard times are behind so we can make it happen
Someone’s following my voice, I want to be an astronaut and fly away, away
わからないよ ぼくはもっと強くなりたいんだ
厳しいときはもう過ぎ去ったんだ ぼくらならできるさ
だれかがぼくに耳を傾けてくれる 宇宙飛行士になってこの空を飛び立ちたい
(「Learn to Hope」)
だいじょうぶ、Andrre。ぼくはきみの歌を聴きつづけるよ。
30歳を目前にしてこの蒼すぎる作品に出会えてよかったと思います。
p*dis online shopには今月の下旬に入荷予定です。
p*dis online shop : andrre – learn to love商品ページ
soso参加!Zoën初のプロデューサー・アルバム『One Night Between』
今年の3月にリリースしたhueの配信限定コンピ『Hip Hop Hums』に収録した、Andrreをフィーチャーした「Lonely Kid」が最高だったフランスのプロデューサーZoën。
彼にとって初めてのプロデューサー・アルバムがMilled Pavementより先日リリースされました。件の「Lonely Kid」はもちろん、sosoやCeschi、Noah23、Astronautalisなど、hue関連でもおなじみのMCたちをフィーチャーしています。
トラックリストは以下のとおり。
01. Bonsoir
02. Lonely Kid (ft. Andrre)
03. No Dancing (ft. Swordplay)
04. I Don’t Wanna Be (ft. Ceschi)
05. Shame (ft. Andromeda Subvert)
06. Gebrigsee (ft. Epilog)
07. Unknown Artist (ft. Soso)
08. Subduing Demons (ft. James Reindeer)
09. Shine (ft. Nabahe & Ceschi)
10. Palinedrome Night (ft. Owel Five)
11. Orange (ft. JamesPHoney)
12. Magistrate (ft. Noah23)
13. Dingue
14. Be Careful What You Wish For (ft. Astronautalis)
なかでも注目はsosoが参加した「Unknown Artist」でしょう。アルバム『Tinfoil on the Window』以降、沈黙を守っていたsosoにとってひさしぶりのラップ曲です。sosoが他人のビートに載せてラップするのはFactor以外では初めてのことなのです。つまりsosoがZoënのことを認めたってことです。
ちなみにその昔、某日本人ビートメイカーの作品でsosoにヴォーカルをお願いしたいというオファーがあったことがありますが、ぼくが「やったほうがいいよ」って無理矢理すすめたものの、「気が向かない」という理由で断った過去があります。それだけ彼が他人といっしょにコラボするのはレアなことなのです。
そして、結果的にこのコラボレーションはsosoとFactorのように抜群の相性のように思えます。緊張感のある彼のラップはあの「Birthday Song」のころを思い起こさせるほど。
Zoënは間違いなくFactorに並びうるプロデューサーだと思います。MotionlessのPierre The MotionlessやAndrromakのRomaなどとともにヨーロッパのシーンにも引き続き注目していかないと!
いつのまにやら、Milled Pavementもデジタル・オンリーになったのかな?この作品はデジタル・オンリーのようです。とりあえず、iTunesのリンクを貼っておきます。
iTunes: One Night Between – Zoen
※Bandcampでフル試聴できます。
Bandcamp: http://zoenmusic.bandcamp.com/album/one-night-between
myspace : http://www.myspace.com/zo3n
関連ブログ記事:hueニュー・コンピレーション『Hip Hop Hums』
関連ブログ記事:Zoënソロ・デビュー・アルバム
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