Archive for the ‘disc review’ Category
The Delano Orchestraニュー・アルバム『Now That You Are Free My beloved Love』〜生きづらいと感じる日々を送るすべてのひとへ〜
フランスのロック・バンドThe Delano Orchestraの3枚目のアルバムがリリースされ、p*dis online shopにも入荷しました。フランスでの状況は知りませんが、日本での知名度もまだまだ。これからもそう大きくは変わりませんが、個人的にはデビューからずっと彼らの動向を追ってきました。
彼らとの出会いは古く、2007年末にリリースしたhueのコンピ『once a hue, always a hue』(いま聴いてもいいコンピだ〜)に参加してもらったPastry Caseの曲にこのバンドの中心人物であるAlexandre Rochon(当時はAlex Delanoと名乗っていたと思います)がヴォーカリストとして参加していたことがきっかけです。
で、Alexのことを調べていたら、The Delano Orchestraというバンドをやっているのを知り、コンピの数ヶ月後にリリースされたデビュー・アルバム『a little girl, a little boy, and all the snails they have drawn』を聴いて、もう彼らの虜になったというわけです(このアルバムはもう廃盤みたい)。ちなみに、今回クレジットを見てたら、Alexandre Rochon (a.k.a. The Delano Orchestra)と書いてあるので、つまり、Mark Hamilton = Woodpigeonと一緒の方式ですね。でも、作品ごとに名前や設定を変えるのはやめてもらいたいと思いますけどね(笑)
2009年の2nd『Will Anyone Else Leave Me?』から1年余りでリリースされた3rd『Now That You Are Free My beloved Love』。タイトルがいつも絶妙ですが、今回は「愛する人よ、今やきみはもう自由だ」できました。基本的には前作でバンドとしてのダイナミズムに重きを置いた前作の延長線上にあると思います。本作ではギターが中心の曲が増えていますが、トランペットやチェロが入っているのが彼らのおもしろいところなので、個人的にはそこは残念でした。誰かのように普通のバンドにはなってほしくないです。
でも、結局はAlexの個性的な歌がこのバンドを成立させているので、問題はないかと。で、今回一番嬉しかったのはブックレットにリリックが入ったことです(汚い字の手書きで読みづらいけど)。改めて彼の詩世界とちゃんと向き合ってみると予想通りの暗さでうれしい。
というわけで、泣きながら歌っている(ように聴こえる)11分を越えるタイトル曲は圧巻で鳥肌がたちましたが、リリックも含めて本作の私的ベストトラックは「Dyin’ Alone」。トランペットとチェロとアコースティック・ギターとドラムのアンサンブルの慎ましやかさがとても心地いいのです(タイトル曲は聴くのがつらすぎるのです)。「ぼくはひとりで死ぬことを夢見ていた」と歌ってるけど。
彼らの音楽を聴いているとSparkele Horse、Elliott Smith・・・いまではもうここにはいない先人たちの名前がどうしても思い浮かんでしまいます。Alexandre Rochonも同じように生きづらい人生を送っていることは想像できますが、1年ごとにこうして彼の新しい音楽を聴けることをとてもありがたく噛み締めながら、この美しい作品を聴きました。
Seawater / The Delano Orchestra
p*dis online shop : the delano orchestra - now that you are free my beloved love詳細ページ
The Delano Orchestra myspace
The Third Eye Foundation – The Dark 〜墓のなかからもどってきました〜
この10年、リミックスなどではたびたび名前を見かけていたものの、もっぱら本名名義で活動していたMatt Elliottがついに「The Third Eye Foundation」の封印を解き、4th『Little Lost Soul』以来、10年ぶりとなるニュー・アルバム、その名も『The Dark』をリリースします。
暗黒のアトモスフィア、頭をもたげる複雑なビートと重たいベースによるウォール・オブ・サウンド。TEFの音楽的エレメンツがすべて表現された本作は、まぎれもなく『Little Lost Soul』の続編です。自らを葬り、レクイエムとして鳴らされた前作から10年、墓から出てきたTEFの帰還に涙せずにはいられません。
5編の組曲に分けられたトータル43分のオペラ。鼓動するドラムンベース・ビート(時にはダブステップ調のビートも)やスリリングなノイズと、恐怖的なクラシカル・オーケストレーションの激しい応酬の果てに訪れる、つかの間の幸福に満ちたサウンドスケープ。全編を通してメロディーを担っているとも言える、コラールや声のサンプリングが、叫び、ささやき、すすり泣く、容赦のない感情の結露が激しく心を揺さぶる。その啓示的な展開はTEFならではでしょう。
痛み、悲しみ、苦しみ、そして、怒り。本名名義で絶望を歌いつづけた彼が再び世界に対しての怒りを表明した『The Dark』は、罪と後悔にさいなまれながら終わりなき戦いを続けないといけないことを表しているようです。ただ、希望をほのめかしたあとに、地獄の底に突き落とそうとしているようなラストの展開がどういうことなのか、もうすこし考えてみないといけませんね。
アルバムにはいずれもマルチ・インストゥルメンタリストであるChepelier FouことLouis Warynskiと、Manyfingersこと盟友Chris Coleが参加しています。アートワークはおなじみのUncle Vania(この前ご紹介したものから上記のカバーに変わったみたいです)によるもの。
最後に、『I Poo Poo on Your Juju』のブックレットにひっそり書かれていた言葉をいま一度書き留めておきます。
“Farewell,my pleasures past, Welcome,my present pain !”
孤独な魂よ、痛みとともに生きつづけましょう。
ida071 / Ici D’ailleurs
2010.11.8 release
Track listing
1. Anhedonia 11:12
2. Standard Deviation 10:20
3. Pareidolia 7:29
4. Closure 9:52
5. If You Treat Us All Like Terorists, We Will Become Terorists 4:10
Dakota Suite – Vallisa 〜闇が終わったとき〜
間もなくGlitterhouseからリリースされるDakota Suiteのニュー・アルバム『Vallisa』は、2009年11月20日にイタリアのバーリで行われたライヴをレコーディングしたもの。Chris Hoosonがヒーローだと公言するアメリカ人チェリストDavid Darlingと、パリのピアニストQuentin Sirjacqとのピアノx2+チェロという編成でのライヴです(Chrisは曲によってギターも弾いています)。
彼にとって生涯最高のライヴであり、「人生を変えた夜」と言うほどのライヴの記録。基本的にライヴ盤なんて、実際にそのライヴを観た人にとってのお土産とか贈り物みたいなものだとぼくは思っています。実際、ぼくもスコット・マシューやタマス・ウェルズなんかのライヴ音源をよく聴き返してはいろいろ思い出していますが、それはあのすてきな記憶を大切にするために聴いているだけです。YouTubeで観るライヴ映像も、実際に観てもいないライヴ盤も、それがじぶんのなかで大きな存在になることはないと思っていました。でも、この作品は少しちがう。それを説明するのは簡単ですけど、Chris Hoosonが書いたすばらしすぎるセルフ・ライナーノーツを読めばもっと簡単にわかるでしょう。文章のほとんどをDavid Darlingへの賛辞に費やされていますが、要するに闇のなかにいた彼が自身を救ったチェリストとともにライヴをすることになった経緯が綴られています。
長いけど、少し引用しましょうか。
ぼくが人生でもっとも暗く、もっとも自己破壊的な時期を進んでいた2008年のこと、デヴィッドの音楽はほとんどぼくの毎日にとって厳粛な賛美歌集となっていた。ほとんど、ぼくが取り込んでいた闇の感覚に対する日々の瞑想のようでもあった。最後のレコード『Waiting for the Dawn to Crawl Through and Take Away Your Life』(2007年作)を作った経験がぼくの感情的健康を完全に痛めつけたから、1年以上ものあいだ、楽器を弾くことすらしなかった。
ぼくは痛みを消し去るためだけにピアノを弾き始めた。もしそうしなければ、ほとんど死んでしまったようであることを知っていたから。ピアノを弾くとき、ぼくはデヴィッドのチェロがぼくの頭のなかでセレナードを歌っていることを想像していた。だから、自分がどこにいるかに気づき、闇が去ったことに気づくのをやめたとき、ぼくはジョアンナ(妻)のためにレコードを作りたいと感じ、彼女に告げた。闇の時代は終わったよ、またきみがぼくを救ってくれたんだ、きみから離れていた一歩ずつが、小さな死を示していた、と。きっと返事は来ないだろうと考えながら、ぼくはデヴィッドにメールを送った。彼にこのプロジェクトの終わりを伝えるために、もし、彼がその曲を気に入らないのなら、他の人にストリングスを弾いてもらうことはしないで、もう二度と聴かないと。ぼくはぼく自身のなかから引っ張り出したこの曲を完成させるために手伝ってくれないかと頼んだんだ。デヴィッドは「イエス」と言った。いまでは彼にプレッシャーを与えたんじゃないかと思って後悔している。
(中略)
そして、2009年の11月20日の夜、ぼくはデヴィッドに初めて会った。それは誰かすでに知っている人に会うかのようだった。カンタン・シルジャクに、友人のシルヴァン・ショーヴォーが参加するはずだったトリオで演奏してもらうように頼んだ。でもシルヴァンは土壇場になって来れなくなり、だからカンタン(いまでは親友である)は準備に48時間しかなかったんだ!
ぼくがみんなに伝えられるのは、このレコードであなたがあなた自身で聴いたことだけだ。もっとも感動的で、スピリチュアルで、心に栄養を与え、ぼくの人生を変えた夜。バーリのヴァッリサ礼拝堂でふたりの男とともに起きた出来事は、これを聴くたびにぼくの核へとぼくを動かすだろう。
『Waiting for the Dawn to Crawl Through and Take Away Your Life』のなかでも一番の名曲「Because Our Lie Breathes Differently」のメロディーにDavid Darlingのチェロの力を借りて、『The End of Trying』で美しすぎるインスト曲に仕上げた「Hands Swollen with Grace」。このライヴ・ヴァージョンの感動は言葉では表せないほどで、原曲を越えたと感じるライヴ・ヴァージョンはおそらく後にも先にもこれ以外ないとすら感じました(下記のp*dis online shopのリンクで試聴できます)。録音のクオリティー自体はたいしたことないですが、ここに録音されてるのはただの音楽だけじゃなくて、闇を乗り越えた男の感情の塊なのです。それ相応の覚悟じゃなければ聴けないから、ぼくはこれで最後にします。
タイミングよく、こちらでDakota Suiteの来日もアナウンスされました。
december 4th osaka
december 5th matsumoto
december 7th tokyo
december 8th nagoya
december 9th wakayama
というかんじで12月上旬のようです。タイミング悪く、タマス・ウェルズの来日と被っていますが。関西のひとはタマスかDakota Suiteか究極の選択を迫られるわけですね。なんというか、お気の毒に、としか言えません(苦笑)
猛暑を冷ますそよ風ヴォイス:Ólöf Arnaldsニュー・アルバム
すでにpitchforkで取り上げられ、ビョークとのデュエットが話題になっている1980年生まれのアイスランドの女性シンガー・ソングライターÓlöf Arnalds。
ことしのSXSWでももっとも印象的なパフォーマンスをみせたアーティストに挙げられ、9/14にはいよいよOne Little Indianより2ndアルバムをリリース予定ということで、ブレイクが期待されます。p*disからリリースしたÓlafur Arnaldsと名前が似ていてややこしいですが、もちろん別人です。
彼女はムームの元ツアー・メンバーでもあり、他のアイスランドのバンドと多数共演経験があります。こんどの2ndアルバム『Innundir Skinni』は前作でもプロデュースを手がけたシガー・ロスのKjartan Sveinssonと、ピアニストのDavíð Þór Jónssonがプロデュースを手がけ、ビョークをはじめ、Skúli Sverrissonや、AmiinaのMaría Huld Markan Sigfúsdóttirなど、レイキャヴィック・コミュニティーの面々の協力を得て完成させられました。
とはいえ、アルバムの核となるのはアコースティック・ギターやバンジョーの弾き語りによる彼女の驚くべき歌声。話題性は抜群でしょうが、内容はとても内省的。ビョークの存在があまりにも大きいですが、Vashti BunyanやJudee Sillといったフォーク・シンガーの系譜に位置すると言えるでしょう。個人的にはビョークとのデュエット「Surrender」よりもタイトル・トラックで、1stシングルでもある「Innundir Skinni」のアコギ弾き語りにグッときました。
Ólöf Arnalds – Innundir Skinni (official video)
Ólöf Arnalds – Surrender (with Björk)
ちなみに1stシングル「Innundir Skinni」のB面ではアーサー・ラッセルの「Close My Eyes」をカバーしててめちゃくすばらしいのですが、こんどリリースされる2ndシングル「Surrender」では「Sukiyaki」をカバーしているみたいです。
Ólöf Arnalds – Close My Eyes (Arthur Russell cover)
2010年上半期オススメの歌声
2010年が半分終わったということにおどろきを隠せません・・・。上半期ベストを挙げるのも面倒なので、このブログで取り上げてこなかったアーティストを紹介することでそのかわりとさせていただきます。
米ミネアポリスのPeter Millerによるソロ・プロジェクトWe Are The Willows。今年の3月に1stアルバム『A Collection of Sounds and Something Like the Plague』をリリースしました。このひともまた「スペシャル・ヴォイス」の持ち主です。元保育園の先生という24歳。
正直なところ、上の画像からは想像もできないような美声です(24歳というのも信じられませんが)。むしろ天賦の才能とはなにかとひきかえに得られるもの。彼は人も羨むようなルックスを持って生まれることはできなかったですが、そのかわりに神様は彼に特別な歌声を授けました。
フリーダウンロードできたEP『A Family. A Tree. EP.』は本当にすばらしい作品でした。そのなかの「Isabel’s Song」を聴いたとき、たとえば、Bright Eyesの「Perfect Sonnet」をはじめて聴いたときと同様の衝撃を受けた記憶があります。当時勤務していた保育園の子どもたちの声のフィールドレコーディングをバックに奏でられる荒削りだけどやさしく響く美しい歌声。残念ながらこの青年がBright Eyesのように注目を集めることはないでしょう。でも、ぼくは見守りつづけたいと思います。なぜなら彼は歌いつづけないといけないのですから。
期待が大きすぎたためか、1stアルバム『A Collection of Sounds and Something Like the Plague』は、正直、EPほどの作品とは言いがたいものだったと思います。統一感という面では個人的に不満が残る内容ですが、まだまだ若いので今後の成長に期待したいと思います。
ちなみに彼はRed Fox Grey Foxというバンドのヴォーカリストでもあります。このバンドは過去に1枚アルバムをリリースしていますが、シンガー・ソングライターにとって受難の時代ですので、むしろそっちのほうがブレイクの可能性はあるのではないかと。いや、ないか。
We Are The Willows – Isabel’s Song (live)
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