Archive for the ‘disc review’ Category
Sam Amidonニュー・アルバム『I See the Sign』
DovemanことThomas BartlettやNico Muhlyとの交流でおなじみのシンガー・ソングライターSam Amidonの4枚目のソロ・アルバム。前作『All is Well』から3年ぶりのリリースですが、彼らなかよしトリオをとりまく状況はこの3年でかなり違ったものとなりました。
とくにニコはBjork、Rufus Wainwright、Antony & the Johnsons、Grizzly Bear、そしてJonsiなど重要なアーティストの作品に参加して一躍世界でもっとも注目を集める作曲家に。
サムの状況も随分と変わったと思います。当時Bedroom Communityの流通を行っていましたけど、はっきり言って、サムの前作『All is Well』なんてほとんどのお店が見向きもしませんでしたから。
さて、待望の新作『I See the Sign』。Dovemanの『The Conformist』に並びうるすばらしい作品です。トーマスは不参加ですが、ニコ・ミューリーがピアノなどでほとんどの曲に参加しています。また、ニコがアレンジとコンダクターを務めたオーケストラ・アンサンブルの導入が前作からの進化でしょう。
持ち前のすばらしいソングライティングをよりリッチにするようなアレンジ。かといってゴージャスに振れるのではなく、彼の素朴さとナチュラルさをより魅力的に聴かせるアレンジです。サムの無感情なヴォーカルは決して非凡なものとは言えないかもれしれませんが、飽きさせることのないなにかを持っている気がします。
Sam Amidon – How come that Blood
彼のバンドキャンプで全曲試聴できるので、ぜひチェックしてみてください。R.Kellyの「Relief」のカバーとかたまりません。
ちなみに、Valgeir Sigurðssonがプロデュースを手がけるほか、楽器もいろいろ演奏しています。ほかにもBen Frost、Beth Ortonらも参加しています。
Best album of the year – Doveman 『The Conformist』
ひとの年間ベストなんておもしろいものでもないですが、風物詩として読み流していただければと思います。
いきなりぶっちゃけますと、今回選んだこの作品はliricoからライセンス・リリースするつもりのものでした。けど、アーティストがライセンスには全く興味がないということで、実はいまも返事を待っているんですが、2ヶ月も待ったからもういいだろう、と。諦める意味でもここに書こうと思ったわけです。
というわけでDovemanことThomas Bartlettの3rdアルバム『The Conformist』が私的ベスト・アルバム・オブ・ジ・イヤーでございます。弊ブログの熱心な読者(なんていないと思いますが)であれば、過去に書いたことがあるので、ピンと来る名前ではないでしょうか。なにせ名前がダサいので。ハト人間ですよ(つまり、いま話題の「鳥人(とりじん)」ですね)。
オルタナ・フォーク注目のシンガー・ソングライターSam Amidonや、4ADからリリースするThe Nationalのメンバーのうち、4/5がレギュラーで参加したり、シガー・ロスのヨンシー・ソロのプロデュースを手がけ、いまもっとも熱いプロデューサーであるNico Muhlyと親しかったり、本作には他にもNorah Jones、Martha Wainwright、Beth Orton、Glen Hansard (Swell Season)などかなりの大物たちがバックアップしていたりして、なにかと周りを固めるメンツがものすごいのです。プロデューサーもこれまでの作品同様、グラミー賞受賞経験のあるPatrick Dillettがてがけていて、とにかくハイ・クオリティー。
けど、やはり何よりすごいのはThomas Bartlettの個性です。専門的に学んだクラシック・ピアノは淡々としていながらエモーショナルで、およそ感情というものをすべて表現しているかのようであり、かなしみをたたえたウィスパー・ヴォイスはほんとうに静かでメランコリックですが、芯の強さを感じさせます。それはDakota SuiteのChris HoosonやScott Matthewが歌うサッドソングと同様の深みのある美しさを持っているように思います。
特にNIco Muhlyがセレステで参加し、鮮やかなストリングスの渦に巻き込まれるようにして彼が歌い上げる「Tigers」は個人的に今年もっとも心動かされた一曲です。
そして歌詞もほんとうにすばらしい。
そして、物事はおわる/そして、あなたは別れをつげる/ぼくは座って/このララバイを口ずさむ/あなたはぼくのほうを向き/なにを歌ってるのと尋ねる/けど、ぼくが答える前に/あなたはドアの向こう/ぼくは呼びかける/けど、あなたにぼくの声は届かない/ぼくはあなたの名前を叫ぶとき/ぼくが倒れるとき/天使が急いでやって来る
Tamas Wells、Scott Matthew、Chris Garneau。ぼくとしてはこの次にリリースされるべきなのはまさにこの人しかいないと思っていた。残念ながらそれはかないそうにないけど。たとえばNorah Jonesが参加している「Aftermath」なんて、彼女がリードヴォーカルじゃないだけで、曲としては彼女のアルバムに入っていてもおかしくないぐらいの曲だから・・・Dovemanはもっともっと注目されていいと思います。あと、今回はジャケットもまともですしね。
Doveman – Tigers
あと、裏ベストトラックはDovemanの「Almost Paradise」のカバーです。リリースは去年だけど、今年一番聴いたかも。
最近気になるおんなのこ 〜Scary Mansionニュー・アルバム
気づいたら12月で、クリス・ガノの来日はもう来月のことなのかと驚愕しています。
そんなクリスとも友人で、ニューヨークではライヴで共演しているLeah Hayes率いるScary Mansionのニュー・アルバム『Make Me Cry』がフランスのTalitresよりリリースされました。
Leah HayesはTV on The Radioの曲にフィ−チャーされたり、イラストレーターとしてニューヨーク・タイムズにイラストを書くなど、多方面で活躍。元FugueのドラマーBen Shapiroと、ベーシストBradley Banksによるトリオですが、男たちは完全にLeahの引き立て役。ちなみに彼女の双子の姉妹であるシンガーソングライターのVannesa Hayesがライヴではメンバーに加わったりもします。美人姉妹によるツイン・ヴォーカルはとても絵になります。
Scary Mansion – Mighty / New Hampshire
Scary Mansion – Unwise (live @ Le Poisson Rouge)
上はニュー・アルバムに収録されている「Mighty」の弾き語り映像。下が今年の夏のニューヨークでのライヴ映像です。サンダースティックという3弦の弦楽器がとても特徴的ですが、サンダースティックをギターのようにかき鳴らすダイナミックなサウンドはとてもかっこいいです。Leahのハスキー・ヴォイスはとてもクールでなんだかカリスマ性も持ち合わせています。今後要注目のバンドでしょう。
Scary Mansion myspace
p*dis : Scary Mansion / Make Me Cry 詳細ページ
“夢の中にだけ存在する世界” Firefliesニュー・アルバム!
タマス・ウェルズが昨年来日したとき、最近のお気に入りだと教えてくれたのが、このFireflies。シカゴのLisle Mitnik(ライル・ミトニク)によるワンマン・バンドです。シンガーソングライターという言い方を彼は好まないようで、Firefliesはあくまでもバンドなんだと言い張ります。
そんな彼が2007年のオフィシャル・デビュー・アルバム『Goodnight Stars, Goodnight Moon』(タイトルがすてき)につづく2ndアルバム『Autumn Almanac』を完成させました(ちなみにキンクスに同名の曲があります。)。
「夢の中にだけ存在する世界」という本作のコンセプトにふさわしい、「ちいさな雪玉サイズの宇宙」と自ら表するピュアでラヴリーな曲の数々は、すべてのインディー・ポップ・ファンの胸を突き刺すことでしょう。
前作は良い意味でも悪い意味でもローファイ・レコーディングでしたが、本作では格段にレコーディングのクオリティーが向上し、特にミックスとマスタリングがよくなった印象。ちいさなベッドルームで形作られたドリーミーな世界はとてもささやかで、ずっと浸っていたいと思わせるようなファンタジー溢れるインディー・ポップです。
また、彼は大の日本好きで村上春樹の小説と宮崎駿アニメ好きの上、「ファイナルファンタジー」シリーズの音楽を手がける植松伸夫に影響を受けているため、その美しいメロディーには日本人の琴線に触れる部分があると思います。
ちなみにアートワークにも用いられている写真のいくつかはご覧の通り日本のもので、どうやら彼の日本の友人とのコラボレーションだそうですよ。
さらにmyspaceの音楽スタイルの欄には「daradara to fuwafuwa to kaze ni fukareru mama fuusen mitaku iraretara donna ni suteki kana」という日本語が・・・なんだこれはと思って調べたところ、なんと日本のガールズバンドZONEの「+.-.×.÷」という曲のリリックの一節だそうです(笑)
かつてリリックに「Abe Natsumi(安倍なつみ)」を登場させたNoltoと肩をはりそうですね。どいつもこいつも日本が好きだね!
なにやら盛り上がっているThe Pains of Being Pure at Heartとか好きな人も気に入ってくれるんじゃないでしょうか。あそこまでノイジーではないですけどね。個人的にはThe Clienteleの1stを思い出します。あのアルバムいまだに大好きです。
というわけで、本作は来月発売です。p*disでも取り扱いますので、ぜひ聴いてみてください。
“質問は簡単なのに答えは難しい” とダメ男は歌う 〜The Boy Bathing
秋ともなると、成熟することについて考えたりします。とりわけ、20代後半の秋でございます。「大人になるとはどういうことなのか」とか「自分はなにになりたいのか」とか、質問はとても単純なのに、それに対する答えはとても複雑です。というか、答えなんてでませんよ。
そんなぼくのようなダメ男の2009年を決して彩ったりしない、ダメ男が歌う汗と涙にまみれた名曲をきょうはご紹介します。
それはニューヨークのバンドThe Boy Bathing (ザ・ボーイ・ベイジング)の昨年リリースのアルバム『A Fire To Make Preparations』に収録された、「The Questions Simple」という曲です。↑のフラッシュプレイヤーで試聴できるので、ぜひ聴いてみてください。めっちゃ名曲です。曲のすばらしさもさることながら、歌詞が泣けます(歌詞はこちらを参照ください)。
ヴォーカルのDavid Hurwitz(ブサメン)の実体験を写したような歌詞のダメっぷり。メロディーの美しさとエモーショナルなヴォーカルがひたすら心に突き刺さります。
彼の歌声は、タマス・ウェルズやクリス・ガノのように決してきれいなものではありません。むしろダミ声です(笑)けど、この声で、(そしてこの顔で)この歌が歌われるからこそ、心に響くんだと思います。
そして、コーラスでもユニゾンでもなく挿入されている女性ヴォーカルがとてもいいかんじなんです。まったく違う旋律を歌う彼女の歌は、決して交わらない気持ちを表しているかのように、とても切なく響きます。あるいは、歌詞が示すとおり、彼にとって叶わない恋を表しているのでしょうか。
‘Cause every poem I’ve written you can take apart
the questions can be simple but the answer hard
how can I finish if I never start
How can I love you with a broken heart?だって、ぼくが書いた詩すべてをきみは酷評するから
質問はシンプルなはずなのに、答えはむずかしい
はじまってなかったとしても、ぼくはどうやってやめればいいの?
傷ついた心でどうやってぼくはきみを愛すればいいの?
なんて青いんでしょう?「Running through the rye, but there is no catcher」なんて歌詞も飛び出して、ひたすら赤面してしまいます。中学生のときに始めて聴いたウィーザーの『pinkerton』を思い出しましたよ。あの頃死ぬほど聴いたのに、いまではあまり聴かなくなったウィーザーのように、この曲もずっとは聴いていないかもしれませんが、少なくとも今年のぼくにとっては大切な1曲です。
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