なつのおもいで ~ Tamas Wells Japan Tour 2007 ~
さて、何から書こうか。
ツアーの総括をするつもりだったけど、とんでもなく長くなりそうだったから、短めにしよう。
僕が書くべきことは承知しているけど、気持ちを伝えるのに長くある必要はないから。
▲渋谷の豆腐レストランにて
タマス・ウェルズ夫妻が初めて日本に足を踏み入れてから、あと少しで一ヶ月が経つ。
そのスピードに驚くとともに、彼らと過ごした時間がかけがえのないものだった
という実感はいつまでも薄まらない。正直最初は不安で仕方がなかった。
僕にとってまだ3回目のツアーだったし、とりわけ今回は初めてのセルフオーガナイズ
だったから、期待よりも不安の方がずっと大きかった。初めて会ったタマスは地声が
やたら低くて、本当にこの人があの歌声を持っているのかと思ったし、人前で演奏する
のが1年半ぶりだと告白されたりと、このツアーは無謀なんじゃないかと思ったものだ。
▲8/17金沢公演
まあ、そんな不安は初日の金沢公演でのリハを観たときに消え去り、僕はその瞬間、
ツアーの成功を確信したものだ。新曲を次から次へと作っていくタマスは昔の曲のことは
すべて忘れてしまっていたため、ツアーが決まってから数ヶ月かけて、歌詞を思い出す
ところから始めたらしい。初日は特に緊張していたみたいで、リハ終了後、開演までの
2時間ほどを控え室での練習に費やしており、せっかく21世紀美術館でのライヴだったのに、
美術館を一切観てまわっていなかったくらいだ。奥さんのブロンはその間、ふらふら
していたけど。初日ということもあり、何度かギターを間違えていたのはご愛嬌としても、
彼の歌声はそんなミスを帳消しにするだけの特別なものだった。金沢公演は兄を含め、
数人のボランティアの方たちに手伝ってもらった。金沢21世紀美術館でタマスのライヴを
観たいという個人的なブッキングだったのだけど、成功したのは彼らのおかげだ。
彼らなしには金沢公演は成立しなかったと思う。本当にありがとうございました。
▲8/17金沢公演
・・・うーん、どうしても長くなるので、すべての公演を振り返るのは避けるけど、
どの公演でもタマスは丁寧に演奏し歌っていたし、ライヴ後はオーディエンス一人一人とも
丁寧に会話していた。ミャンマーでは彼が音楽をやっていることを、友達ですら知らなかった
みたいで、彼が日本に行く目的を伝えても信じてくれないと笑いながら話していたけど、
そんな彼は、僕らがどれほど彼の音楽に感動したかを一生懸命伝えたとしても、
それを嬉しく感じはしても、結局その言葉を本当には信じていないと思う。
自分の作る音楽がそれほどまで人の心を動かすとはどうしても理解しえないことなのだろう。
子供のような笑顔を持ちながらも、彼は誰よりも大人だと思う。
その落ち着きからは慈愛としか言えないものが感じられ、彼の音楽の優しさと悲しさに
これほどまでに心を動かされるのは、その音楽が「人間らしさ」そのものだからだと思う。
▲8/23明日館公演/子供たちが書いた壁画がいい雰囲気
金沢公演同様、個人的な感情でブッキングしたのが8/23の自由学園明日館での公演。
フランク・ロイド・ライト設計、かつて学校として使われた木造の古い建物。
以前はテリー・ライリーなどのライヴも行われたらしいこの場所の存在を知ったのは偶然だけど、
見学に行って一目惚れ。「タマス・ウェルズ × 明日館」。
最高の取り合わせだったことはあの夜のライヴを目撃したすべての人が感じただろう。
自画自賛になるけど、我ながら素晴らしいブッキングだった(笑)
反響するホールゆえにノンPAで演奏を行うことにしたが、リハ時にはセミの声が会場内にまで
鳴り響き、タマスが苦笑しながら「sin、泣き止まして来てよ!」と言っていたぐらい。
開演の10分前には奇跡的に泣き止んだのは、僕の祈りが通じたからに違いないが、
内心は真っ青になっていた。人前で話すのが大嫌いなのに、主催者挨拶として開演前に
少し話したのは、そのためで、「セミがうるさいかもしれないけど、ごめんなさい」という
要するに言い訳だったのだけど、なぜかウケた。おかげではけるときに照明につまずき、
さらに笑われるという古典的なことをしてしまったのは自分でもどうかと思うけど(笑)
あらゆる音が反響するため、観客にとってもプレッシャーがかかる酷な環境だったけど、
マイクを通さずに聴いた彼の歌声は「奇跡」という言葉が大げさにならないぐらいの美しさだった。
▲8/23明日館公演のリハ/僕だけが聞けた「melon street book club」!
渋谷O-nestはツアーのなかでは抜群の音響であり、さらにツアーファイナルということもあり、
最高の夜になった。たった1時間の出来事だけど、あの時に生まれた様々な感情を言葉に
することは容易ではない。最後、2回目のアンコール(演奏したビートルズの
「Nowhere Man」のカバーはこれまで聞いたどの「Nowhere Man」よりも美しかった)
が終わり、楽屋で彼にプレゼントをもらったとき、涙をこらえることなんてできるはずもなかった。
できることなら、僕はただのリスナーとして、余計なプレッシャーが一切ない状態で、
彼の音楽に向き合いたかった。それはかなわないことだったけど、
その分、本当にたくさんの人々が喜ぶ姿を見たり、話を聞いたりすることで大きな勇気をもらえた。
これだけやりがいのあることはそうはないだろう。
▲8/25渋谷O-nest公演/ツアーファイナル!
また、僕は最初から最後までブロンに焼きもちをやかざるをえなかった。
こんな人の奥さんでいられるなんて本当に羨ましい。男の僕で
すらそう思った。
多くの女性ファンと話をするタマスを見て、ブロンは優越感に浸っていたようだ。
「一番のファンは私だけどね」と僕に耳打ちしながら。今回のツアーを最も楽しんだのは
間違いなく彼女だろう。日本人のなかでは多分僕が一番楽しかっただろうけど。
「彼の両親に感謝しなきゃ、だってこんなに素敵な人を私にくれたんだもの」
というようなことも言っていたようだ。
高校時代に出会った彼らは結婚してすでに10年になるという。
こんなに素敵な夫婦にはこれまで出会ったことがない。
8/25のツアーファイナルの後、彼らはさらに1週間日本に滞在し、観光を楽しんだ。
「日本はすべてが美しい」と言う彼らはおでんと広島風お好み焼きと麦茶を特に気に入り、
泊まった旅館の硬い枕にだけは文句を言い、テレビで観たARASHIの歌がひどかったと笑い、
ミャンマーの音楽シーンはもっと最低だと笑い(イーグルスのミャンマー・カバーが
流行っているらしい)、そして、sosoの新作を絶賛してくれた。
最後の夜はいろんな話をしたけど、次のツアーの打ち合わせもした。
彼はまたきっと日本に戻ってくるだろう。来年か再来年か。それは分からないけど。
その前に次のアルバムを作ってもらわないと。
ミャンマーでの生活がその作品に反映されるのは間違いないけど、
今回のツアーでの経験もまた大きな影響を及ぼすはず。1曲は僕に捧げてくれるらしい(笑)
ライヴのときは、「これは僕の友達の話で~」とか言って紹介されるのだろうか。
想像するととても可笑しい。
▲オマケ。8/19奈良公演/控え室で寝るタマちゃん。どこでも寝れる男。
こうしてたまにツアーを行うのは、普段CDを作ることをメインにしている僕らにとって、
精神衛生上重要なことだ。数字に頭を悩まさざるをえない仕事は、結果が出ないと
どうしても煮詰まってしまうからね。hueなんてやめたほうがいいんじゃないかと
僕はこれまでに少なくとも3回、いや、4回は思った(苦笑)
アーティストを初めとする様々な人たちとの出会い。「このツアーは仕事だけど、
僕にとってはホリデイみたいなもんだよ」とタマスには言ったけど、
そんな非日常が僕に再びモチベーションを与える。
僕は誰かに多くを与えられるわけではないけど、こうしてタマスの力を借りて、
間接的に誰かの心を動かすことができたというのはとても素敵なことだと思う。
彼もまた日常に戻り、HIV患者と向き合い、夜にはブロンに歌を聞かせ、休みの日には
草サッカーをしているのだろう(彼のポジションがどこかを訊くのを忘れた!)。
また会おう。
最後に、ライヴにお越し頂いたみなさま、各オーガナイザー、共演アーティスト、
関係者のみなさま、そして、タマス&ブロンウィン・ウェルズ夫妻、
本当にありがとうございました!
というわけで、soso Japan Tour編に続く・・・。
This entry was posted on 2007年 9月 14日 at 13:03 and is filed under diary. You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed. You can leave a response, or trackback from your own site.
9月 14th, 2007 at 19:07
一本道ノボル says:おお、まるでミスチルの「彩り」の歌詞のような着地点!!
「僕のした単純作業が この世界を回り回って
まだ出会ったこともない人の笑い声を作ってゆく
そんな些細な生き甲斐が 日常に彩りを加える
モノクロの僕の毎日に 少ないけど 赤 黄色 緑
なんてことのない作業が 回り回り回り回って
今 僕の目の前の人の笑い顔を作ってゆく
そんな確かな生き甲斐が 日常に彩りを加える」
いやいや、なんてことのない作業や単純作業どころの話じゃない
けどな(笑。死ぬかと思う作業の果てにある光景だ。
さて、俺のツアードキュメンタリーはこの五倍ぐらいになると
思いますよ!!
9月 18th, 2007 at 18:53
sin says:うっかり返事が遅くなりスミマセン。
完全に燃え尽き症候群です。
そのミスチルの曲は聞いたことないので、
コメントできませんが、確かに単純作業じゃなかったですね(苦笑)
できることなら、ツアーなんてしたくないですよ。ほんと。
けど、またしちゃうんでしょうけどね。
五倍!
早く完成させてください~
9月 19th, 2007 at 11:10
yas says:こんにちは。sosoのツアーも無事終了して、ようやく一息といったところでしょうか。お疲れ様でした。
これを読ませてもらって、またあのときの記憶が蘇えってきました。当事者としては慣れないツアーでさぞかし大変だったのでしょうが、きっとそれ故に、手作り感のあるとてもいいイベントになったんだと、身勝手ながら観ていた方としては思えました。
ニューアルバム、楽しみですね。
一本道さんのドキュメンタリーも楽しみにしています。
9月 20th, 2007 at 12:46
sin says:> yasさん
コメントありがとうございます。
ニュージーランドから来てくれる人がいるんだよ、と
タマスに告げたときの彼の驚きの顔をいまでもはっきりと憶えています(笑)
結果的に、遠方からはるばる来た甲斐のあるイベントだったと
思っていただいて、こちらも努力の甲斐があったと安心しています。
果たして、オーストラリアでのライヴが先か、次の日本ツアーが先か、
現時点ではさっぱり分かりませんが、来年にはまたライヴの機会もあるでしょうし、彼のことを応援しつづけてあげてください!
10月 3rd, 2007 at 23:09
owen says:はじめまして。
Tamas Wellsにsosoと度重なるツアーお疲れ様でした。
タマスは現在はミャンマーにいるのでしょうか。
ミャンマーは今、ミャンマー軍事政権による反政府デモ弾圧など大変な情勢になっていますよね。
タマスの在住地はヤンゴンとなっているようですが、ニュースなどで話題となっているAPF通信の長井さんが銃で撃たれたのもヤンゴンです。
タマスは向こうで無事にやっているのでしょうか。
Myspaceの最終ログインも9月25日で止まっていますし、とても気になります。
最後に、sosoの新作、ライブはいけなかったのでまだMyspaceで聴いただけなのですが、3曲とも感動的です。
5日がとても楽しみ。
10月 4th, 2007 at 10:13
sin says:> owenさん
はじめまして。コメントありがとうございます。
タマスはヤンゴンに住んでいるので、非常に心配です。
メールを送っても届かないので、ネットがつながらない状況になっているようです。
さすがに大丈夫だと思いますが、万が一ということもあります。
けど、縁起でもないことは言わないようにしています。
soso、いよいよ明日発売です。
とても素晴らしい作品なので、是非聴いてみてください!
10月 4th, 2007 at 22:45
owen says:お返事ありがとうございます。
少しでも早く向こうの状況が良くなることを祈るばかりです。
"A Plea en Vendredi"を聴きながら。
sosoはO-nestでのライヴ音源につられてhueで注文しました!
届くのが楽しみです!
10月 5th, 2007 at 20:03
sin says:> owenさん
最新のエントリーに書きましたが、
タマスの奥さんからメールが届き、
どうやら元気に過ごしているみたいですよ。
そうですね。早く状況が良くなって欲しいものです。
無事ならそれで十分です。
ご注文ありがとうございます。
音質はそれほど良くはないですが、雰囲気は伝わると思います。
楽しみにお待ちください!