hue and cry

Tamas Wells Japan Tour 2010 後記(前編:12/3東京)

「今度は冬の日本をみてみたいな」と言って別れた2008年の夏。その約束通り、ぼくらは2年半ぶりに出会いました。

12/2早朝の成田空港。国際線がオープンした羽田空港着だったらよかったのに・・・、と思ったけど、長い道のりをかけて迎えに行くからこそ、その感動も大きかったりするかも、ということに気づいたのは、成田から東京へと向かうバスのなかでした。

ひさびさの再会のタマス・ウェルズとアンソニー・フランシスには「ひさしぶり。また会えてうれしいよ」と、今回、産休のネイサン・コリンズに代わって参加のキム・ビールズには「はじめまして。よろしくね」とあいさつ。

タマスは「どうするかわからない」と言いつつも、2年前のツアー以降も結局はずっとヤンゴンに住みつづけています。だから、彼がほかのメンバーと会う機会はそれほど多くはありません。1ヶ月前の中国ツアーをいっしょにまわっているので、およそ1ヶ月ぶりの再会。彼らの再会の場面に立ち合うのも、ぼくのひそかな楽しみなのです。

ここしばらく単身赴任中のタマスに、アンソニーがタマスの奥さんと娘からの手紙を手渡しました。娘からの手紙にはパパの絵が書いてあるのが見えました。「Happy Birthday」。そう、11/19にタマスは誕生日を迎えたばかりだったのです。

いろんな事情で今回はライヴ3本だけして翌日帰国というせわしないスケジュール。そんななか、来日初日の貴重なオフ時間もホテルでの練習にあてるというあたり、彼らのまじめさが伺えます。


ヨンシーの来日公演と日程がかぶっていることを告げると、「じゃあ、ライヴはキャンセルしてみんなでヨンシー観に行こうよ」と、タマス。さらに前回のツアーで長い時間をともに過ごしたwater faiのマキコさんたちのライヴも同じ日だと告げると、「water faiのライヴはいいから、ぼくらのライヴでベース弾いてもらうようにマキコに言ってよ」と、アンソニー。なつかしいなごやかな時間が流れて行きます。「water faiのニュー・アルバムは出たの?」ってふたりとも気にしてましたよ。しかも、water faiの前のアルバムのタイトルまで覚えてた。ぼくですら覚えてないのにね。いつも感心するのですが、タマスはとても記憶力がよくて、ほんとうによく覚えています。

ホテルルームでのリハーサル。ああしようこうしようとみんなでミーティング。セットリストの第一案には実は新作からは「The Crime at Edmond Lake」と「England Had a Queen」と「Your Hands into Mine」しか入ってなかったのです。「リクエストは?」って訊かれたので、「ニュー・アルバムからもっとやってよ」と。

2年前のツアーのときはバンドでの演奏のブランクのせいで、タマスがソロで演奏する曲が1/3ぐらいあったように思います。その後、日本以外のアジア・ツアーの経験を経て、バンドとしてのアンサンブルがずっとよくなっていることが、リラックスした雰囲気のリハーサルだけですぐに感じられました。「いいライヴになると思うよ」。

12/3早朝。ミャンマーのスコールのような大雨が東京を襲いました。たぶん7時くらいだったと思いますが、激しい雨音で目覚めたぼくは相当青ざめていたと思います。「出た、ミスター天変地異!」と。そのままもう一眠りして起きたら夏になっていました。

最高気温23℃。寒いのを期待していたタマスもがっかりするほどの暑さ。「これじゃミャンマーと変わんないよ!」。彼らが帰国してから急に寒くなってきたことを考えると、つまりそういうことです。言うまでもないですね。

今回のツアーの初日の会場は早稲田にあるスコットホールという礼拝堂。大正時代の煉瓦造りの建築物で、東京都の選定歴史的建造物だそうです。昨年のジョアンナ・ニューサムのライヴでその存在を知ったのですが、コンサートのほかに結婚式などでも使われているようですね。前回使用した自由学園明日館の講堂をひとまわり小さくしたようなところでした。

サウンドチェックの前に先にステージのセッティング。アーティストたちに手伝わせるつもりはまったくなかったのですが、重いステージを運ぶのに苦心しているぼくらを見かねたのか、彼らも力を貸してくれました。オーストラリア人って力持ちですね。ぼくらがひぃひぃ言って運んでいたものをいとも簡単に運んでみせました。まさか日本人と外国人のフィジカルの差をこんなところで実感するとは・・・。

舞台美術に関しては、クリスマスのイルミネーション・ライトを持ち込んだのはぼくですが、その他はすべて彼らが好き勝手決めました。ステージ上に配置した階段にお土産で買った急須と湯のみを置いたり、そのへんにあった造花を置いたり。さらにどこかからか勝手に運んで来たランプを置いたり。正直どうなのかと思いましたが、楽しそうだったので止めませんでした(笑)キムなんて階段に片足置いてギター弾くまねして、「ねぇねぇ、こういうふうに弾くのよくない?」とか悪ふざけしすぎ!

まずはファブリティオ・ポルペッティーニが撮ったタマスのドキュメンタリー映画『the houses there wear verandahs out of shyness』の上映。この日が一般に公開されるのは世界初でした。が、サウンドチェックが長引いたせいで映像のほうのリハができず、不手際がありまくりの上映に。ほんとうに申し訳なかったです。もう思い出したくもない・・。

オープニング・アクトはキム・ビールズ。初めてちゃんと聴くキムの歌。2006年リリースのアルバムの音源をmyspaceでいくつか聴いていましたが、彼いわく、そのころとはもう随分違っているらしい。伸びやかな歌声、確かなギター・プレイ。何より曲がいい。the steadfast shepherdもそうですが、タマスのまわりにはいい曲を書く人が集まりますね。年明けにはニュー・アルバムをリリースするそうです。実際、今回演奏されたのもニュー・アルバムからの曲が多かったみたい。1stアルバム『The Whispers』を少し預かっているので、テキストが書き次第、ショップでご案内します。興味のある方や、ライヴで買いのがした方はぜひ!

休憩をはさんで、ついにタマス・ウェルズ。まずはキムとふたりで登場して、「Fine, Don’t Follow a Tiny Boat for a Day」でスタート。ツアー前にセットリストを妄想していたのですが、前回のツアーで演奏されなかったため、個人的にノーマークだったこの曲でのスタートは意外でした。

曲のおわりにはライヴの当日、東急ハンズで買った自転車のベルをキムが慣れない手つきで鳴らす。「このベルはきょう買ったんだ。この曲のおわりの音にそっくりだったからね」とうれしそうに話すタマス。もしかしたら、これがやりたくて1曲目に持って来たのかも。

「12月の東京は雪が降ってめちゃくちゃ寒いって聞いてたんだけど、ぼくらが来たら25℃ってどういうこと!?ちょっとがっかりだよ」と、つかみのMCもいいかんじ。

3曲目「The Opportunity Fair」からアンソニーが参加してトリオ編成に。それにしても、2nd『A Plea en Vendredi』の曲はほんとうに安心して聴けます。キムはギターうまいし、コーラスでの貢献度もとても高かった。タマスもなんだかギターがうまくなった気がしますし。唯一の懸念はアンソニーのバンジョーだったのですが・・・うん、今回もたくさん間違えてましたね(笑)今回、初めてライヴで聴けた「Writers From Nepean News」のギターのブレイクからバンジョーが入るソロ・パートがあって、ぼくはそこが大好きなのですが、アンソニーの演奏にはいつもヒヤヒヤさせられましたよ・・・。

はじめてピアノが入ったのは4曲目の「Reduced To Clear」。いまライヴで演奏されているなかではもっとも古い曲です。CDには入っていないリフレインは今回は歌いませんでしたね。ファルセット・オンリーの歌い方をしているタマスですが、この曲ではちょっと昔の歌い方が顔をのぞくのです。誰も気づかないかもしれないですけどね。

「メルボルンで最初にライヴをしたとき、観に来てくれた友だちがそこで彼女をみつけたんだ・・・だから、きょう恋人がいないひとがどれだけ来てるかわからないけど、もしだれかいい人を見つけたら、今夜はたぶんきみの夜だよ」

これはたぶんぼくへのメッセージだったのでしょう。彼はいつもぼくの恋の心配をしてくれるのです。「ライヴに来てくれたなかにいい子がいるかもよ」「みんなが好きなのはタマスだからムリだよ」とぼくらは言い合うのです。

「そうそう、今回のツアーはニュー・アルバムのためで・・・「Thirty People Away」はミャンマーの爆破事件で30人が亡くなったことを歌ったものなんだ。外国人のぼくにとって、その30人だったかもしれないっていう思いがあって、このタイトルにしたんだ」

タマスのMCはたぶん特に考えて話してるわけじゃない気がします。だって、あんなくだらない話から、思い出したかのように爆破事件の悲劇を話す流れはふつうありえない(笑)

ニュー・アルバムから最初に演奏したのは「True Believers」。この曲はタマスのソロでした。「言い忘れてた。この曲は東京で書いたんだ。東京の思い出がつまってるんだ」と。歌詞を書いたのはミャンマーに戻ってからみたいですけど、そんなうれしいことを言われたら、この曲がよりいっそう特別に思えます。

「Your Hands into Mine」〜「England Had a Queen」とニュー・アルバムからの曲がつづきます。「Your Hands into Mine」は間違いなくこの日のハイライト。ニュー・アルバムの最後を飾るこの曲はCDでは地味だととらえられるかもしれませんが、ライヴでは印象が違いました。タマスとキムのハーモニーが胸をしめつけます。「England Had a Queen」、そして、「The Crime at Edmond Lake」ではタマス・ウェルズ・バンドの完成形を聴いた気がします。タマスの歌さえあればよくも悪くも成立すると言えなくもない彼のライヴにあって、こうして彼らが作り上げたアンサンブルによって、ニュー・アルバムがいかに傑作なのかということを実感させてくれました。

その後も、初日にしては特にミスもなく、すばらしいできのまま終了。特筆すべきは田口製作所のスピーカーとfly soundのPAによる定評のあるサウンド。電子音やアコースティック・.サウンドとの相性のよさは知っていましたが、タマス・ウェルズの音楽とここまで合うとは・・・。いまもライヴのレコーディングを聴きながら書いていますが、ほんとうにすごいです。日曜日も同じPAでしたので、期待と確信を感じながら。初日を終えたのでした。

しあわせな打ち上げを終え、オフィスに戻ってあれこれしてから帰宅したのが確か3時。翌朝は京都行きだ、さあ、どうしましょう。ということで、ツアー後記は次回へつづきます。


※ライヴ中の写真はすべて三田村亮さん撮影です。


set list 2010.12.03 @ 早稲田奉仕園Scott Hall

1. Fine, Don’t Follow a Tiny Boat for a Day
2. When We Do Fail Abigail
3. The Opportunity Fair
4. Reduced to Clear
5. Open the Blinds
6. Lichen and Bees
7. True Believers
8. Your Hands into Mine
9. England Had a Queen
10. Vendredi
11. The Crime at Edmond Lake
12. A Dark Horse Will Either Run First or Last
13. Valder Fields
14. Writers from Nepean News
15. For the Aperture

[encore]
1. An Organisation for Occasions of Joy and Sorrow
2. From Prying Plans into the Fire
3. I’m Sorry That the Kitchen Is on Fire



Tamas Wells – I’m Sorry That the Kitchen Is on Fire (Live at Scott Hall)

Tamas Wells Japan Tour 2010 後記(中編:12/4京都)を読む

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