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Radical Faceニュー・プロジェクトClone始動

clone

Radical Faceことベン・クーパーと、Rickolusことリック・コラードによるプロジェクトClone。ふたりは幼なじみで、いっしょに音楽を作りつづけてきた親友同士。Cloneは何年も前から構想され、音源自体は2年前に完成していましたが、ストーリーありきのこのプロジェクトのための映像の準備に随分時間がかかってしまったようです。しかし、今週ついにCloneが日の目をみることとなりました。

Act.1からAct.6までの全6話で、Act.1が今週公開されたばかり。今後、毎週1話ずつ公開されていく予定です。

Cloneは以下のURLで公開されます。

http://projectclone.com/

物語はCloneの一人称で語られます。Act.1「The Laboratory」ではCloneが目覚めてから研究所を脱出するまでを描いています。音楽と映像以外に脚本も公開されているので、ぜひそちらも目を通してもらえたらと思います。

音楽的にはElectric Presidentをよりジャンクにしたようなかんじでしょうか。Radical Faceに比べると気楽に作った感がありますね。Cloneは基本デジタルでのリリースで、フィジカルはクリスタルドライヴのUSBでのリリースのみ。こちらはCloneのウェブサイトでお買い求めいただけます。

Radical Faceは11月にヨーロッパツアーを行いますが、それに合わせて来月に『The Bastards EP』をリリース予定。『The Family Tree』シリーズの最終章『The Relatives』に入らない曲を含んだEPで、例によってフリーダウンロードです。

Radical Faceに関しては他にもニュースがありますが、それは時がきたらまたお知らせいたしますね。

Radical Faceニュー・アルバム『The Family Tree: The Branches』発売!

ラディカル・フェイスの「家族」をテーマにした「The Family Tree」三部作の2作目『The Family Tree: The Branches』が先日ついに発売されました!

前作『The Family Tree: The Roots』からちょうど2年。あの熱狂の来日ツアーから1年半というタイミングは実に絶妙と言えるでしょう。いい具合だった渇望感を満たし、大きすぎる期待と高くあがったハードルを軽々と越えていく作品に仕上がっています。

『The Roots』が1800-1860年の架空の家族「ノースコート家」の物語をモチーフにしていたのに対し、本作は時間が進み、1860-1910年における次世代の一族をモチーフにしています。「ノースコート家」の物語にアメリカの歴史と自身の経験を糸のように絡み合わたストーリーテリングへのこだわりや執着には畏怖の念を感じるほどです。

前作において、特定の楽器しか用いないという意図的な制限を自ら課していましたが、物語内の時間が進むにつれ、本作では特にフル・ドラム・セットとエレクトリック・ギターの使用が目立つように、よりアップテンポのサウンドと発展的なプロダクションが前作とは対照的です。例によってベン・クーパーがほとんどひとりで作りあげたことにただただ驚愕するのみ。

10月の一ヶ月間、ぼくはこの作品を執着的に聴き重ね、ベンの意図をできるだけすべて汲み取ろうとして、19世紀のアメリカ史を調べたりして真剣に作品研究をおこなってきました。その結果が今回のライナーノーツなわけですが、調べれば調べるほど深みにはまっていくのはベン・クーパーという音楽家の才能であり、この三部作が持つ作品の強度なのだと思います。前作の時点ではわからなかったことは、この三部作が予想以上にはるかに壮大だということと、ベン・クーパーがいかに変態的かということです。

1869年、アメリカで最初の大陸横断鉄道が開通し、19世紀末にかけて鉄道の発展とともに加速度的な工業化・産業化が進み、1890年にはフロンティアが消滅。工業化に伴い商業が勃興し、農業国から工業国へと急速な変貌を遂げ、都市化も進んでいく。そんな時代にあって、本作の中心となるキャラクターは、当時続々と生まれていった巨大企業の工場で奴隷のように働く労働者階級の男。『The Roots』の家族には少ないながら救いも用意されていましたが、『The Branches』の家族には救いは一切用意されていません。来日ツアーで「もし英語がわからなくても、ぼくの音楽はすべて“サッド・ソング”だから」とベン・クーパーがライヴのたびに言っていたことを思い出します。

CDのパッケージはもちろん前作と同じハードカヴァーのブック型。実際に手に取っていただければ、その重厚感を感じていただけることでしょう。この作品は音楽自体がすばらしいのは言うまでもありませんが、コンセプトを共有することができればその魅力は倍増します。なので、できれば歌詞やライナーをぜひ読んでいただけるととてもうれしいです。ベン自身、じぶんの音楽がコマーシャルなものではないことを認めていますが、今回、ネットワークという世界的に大きなレーベルと契約したことでラディカル・フェイスを巡る状況が一変するといいなとぼくは思っています。

YouTubeで検索すれば全曲試聴できるので、ぜひ聴いてください(発売前からアルバムぜんぶアップされていたのは個人的になっとくいかないし、オフィシャルなものではないのでここでは紹介しませんが)。

最後に国内流通盤のボーナストラックについて。今回、とっておきのボーナストラックを用意しています(ダウンロード・コード)。ボートラで釣るような真似は本作にはふさわしくない気がしたので、ボートラ押しすることはしないと決めましたが、本編と同じくらいのボリュームのボーナストラックですので、こちらもぜひ楽しんでいただければと思います。

*Radical Face『The Family Tree: The Branches』詳細:http://www.inpartmaint.com/site/7041

Radical FaceニューEP「Always Gold EP」がリリース

Radical Faceの最新アルバム『The Family Tree: The Roots』からちょうど1年ほどが経ち、そこに収録された名曲「Always Gold」を中心に据えた新しいEP『Always Gold EP』がデジタルのみでリリースされました。

iTunes: https://itunes.apple.com/jp/album/always-gold-ep/id575230450

トラックリストはこんなかんじ。
1. Always Gold (Short Attention Span Mix)
2. Echoes
3. Wandering (Alternative Mix)
4. Always Gold (Acoustic Version)
5. We’re On Our Way
6. Always Gold (Album Version)

「Echoes」「Wandering (Alternative Mix)」「Always Gold (Acoustic Version)」はジャパンツアー限定EP『Japan 2012』に入っていた曲。また「We’re On Our Way」も『The Family Tree: The Roots』の先行EP『The Bastards- Volume One』でフリーダウンロードできた曲なので、3月の来日ツアーに来てくださったかたにとってはほとんど知ってる曲ですね。ちなみに1曲目の「Always Gold (Short Attention Span Mix) 」はその名前のとおり、ショート・ヴァージョンです。

オリジナルとショート・ヴァージョン、アコースティック・ヴァージョンと3つのヴァージョンをまとめて聴いてみて、改めて名曲だなとおもいました。そして、早く新しい曲が聴きたいとも。

「The Family Tree」の次作『The Family Tree: The Branches』にもすでにとりかかってるようですが、完璧主義のベン・クーパーのことですから、また時間がかかることでしょう。2013年中にはきっと出ないでしょうね。2014年かぁ。随分先のことですが、待ちますよ。いつまでも。

Radical Face「Always Gold」ミュージック・ヴィデオ&ライヴ映像

アルバム『The Family Tree: The Roots』のリリースからちょうど1年。そのなかでもいちばんの名曲ばかりか、ラディカル・フェイスが書いた曲のなかでもおそらく1, 2を争うであろう「Always Gold」のミュージック・ヴィデオが公開されました。

家を出ていった弟と、その帰りを家で待ちつづける兄の兄弟の絆を歌ったリリックをベン・クーパー自身が映像化した映画のようなヴィデオです。例によって家族や友人とともに低予算で作ったものですが、完成度はとても高いです。

10人兄弟の長男であるベンにとって、家族や兄弟の関係性を物語として描くことの意味はとても高く、それは彼にとってライフワークです。このヴィデオも兄弟がいるものなら誰しも深い感動を覚えるのではないでしょうか。

ベンが繰り返し歌う「Everything goes away ー あらゆるものが消えてなくなる」ということばをぼくはときどき噛み締めています。

そして、この「Always Gold」の3/24の渋谷O-nestでのなつかしのライヴ映像も先日公開されました。もう半年も経ったんですね。みんな元気だといいな。

ラディカル・フェイスの今後の予定としては親友RickolusとのプロジェクトCloneのアルバムが来年の前半にはリリースされるはずです。アルバムは完成していますが、映像の製作待ちのようです。ぼくは一足先に聴かせていただけましたが、「The Family Tree」シリーズを歴史ドラマとするなら「Clone」はSF。とんでもないスケールですよ。まだしばらくかかりそうですが、たのしみにお待ちください!

Radical Face & miaou Japan Tour 2012 後記

今回のツアーをふりかえる前に、まずはぼくとラディカル・フェイスとのなれそめから書いてみようと思います。

ぼくがラディカル・フェイスを知ったのは2006年の後半のこと。ほどなくして彼のオフィシャル・デビュー・アルバム『Ghost』がMorr Musicからリリースされると知り、タマス・ウェルズにつづくアーティストとしてラディカル・フェイスを迎え入れることを熱望し、すぐにライセンスのオファーを出しました。しかし、当時、交渉の難しさには定評があったMorr Musicとの交渉はすぐに決裂。そして、『Ghost』は世に出て、ぼくが想像していた通り、非常に高い評価を得たのです。

ベンとの交流はその後もつづきます。彼の幻のアルバム『Junkyard Chandelier』(2003年作)の再発をぼくらは話しあっていたのです。ラディカル・フェイスの「アーリー・ワークス」のお蔵出しはとても重要なプロジェクトだと信じていましたが、結果的にそのプロジェクトは頓挫してしまいました。いくつかの初期音源はいまでは彼のウェブサイトでフリー・ダウンロードできますが、『Junkyard Chandelier』はいまだに日の目を見ないまま・・・と思いきや、彼のオフィシャルサイトのフォーラムでフリー・ダウンロードできるのでぜひ探してみてください。

その後、hueのコンピレーション『Once a hue, always a hue』(2007年12月発売)に『Ghost』のアウトテイク「If You Come Back to Haunt Me」を提供してもらったこともありましたが、彼とはいつかいっしょにしごとをするんだと信じていました。

『Ghost』の次のアルバムが出たときはかならずリリースする、と思っていたものの、これが完成しそうでなかなか完成しなかったんですよね。当初、Morr Musicから出る予定だった2ndアルバム『The Family Tree: The Roots』は結局、セルフリリースとなったのはご存知だと思います。それを「後退」だと認めつつも、レーベルという既存のビジネス・システムにとらわれることのない自由さを尊重した彼の選択は、Morr Musicという名門レーベルの影響力を捨て去ることでもあり、きっと勇気のいる選択だったことでしょう。

Morr Musicの規模とは比べものにならないとはいえ、Liricoもまたひとつの商業的なレーベルだと言えます。とはいえ、結果的にぼくらの理念を理解してくれたうえで、ライセンスを許可してくれて、最終的にはほとんど共同リリースに近いかたちでリリースまでいっしょに動けたことは、ぼくにとってはこのうえない喜びです。

話は前後しますが、『The Roots』のライセンスの交渉がはじまる数ヶ月ほど前のこと。miaouから新作に収録する曲のヴォーカルをベン・クーパーに頼みたいという申し出があり、その橋渡しをおこないました。miaouの曲にベン・クーパーが歌をいれて生まれたのが「Lost Souls」という曲です。『The Roots』の交渉時(2011年4月)にはその曲はまだ完成していませんでしたが、そのときにはすでにラディカル・フェイスとmiaouでジャパン・ツアーをおこなうことを頭のなかで思い描いていましたし、実際に交渉の条件に含まれていました。

前置きが長くなりましたが、今回のツアーは「Lost Souls」をはじまりとして、miaouという日本でもっとも誠実なバンドと、ラディカル・フェイスというアメリカでもっとも純粋なアーティストがともに音楽を奏でる奇跡的な一週間となりました。

ツアーがはじまる前日の夜。スタジオで「Lost Souls」の練習をおこないました。そこではじめて会い、まともな会話もほとんどないまま合わせたその曲はまぎれもない「Lost Souls」でした。音楽家ってすごい。わずか1時間足らずの練習にも関わらず、完成度の高い自然な演奏に仕上がったことにはほんとうに驚きました。それぞれみんないろいろな楽器を操れるマルチ奏者である点や、ものしずかな点など、このふたつのバンドにはもともと共通点がたくさんあったのでしょうね。集客のことはまだ予想できなかったですが、この時点でぼくは内容面での成功を確信していました。

無愛想さと人なつこさをあわせもつ「ベア」ことベン・クーパーakaラディカル・フェイス。最年少だけど誰よりも大人でまじめなジェレマイア・ジョンソンと、逆に最年長なのに少年の心を忘れないスイーツ大好きなヨーヨーの達人ジャック・リンカをサポートに加えたこの素敵なヒゲのトリオはとてもバランスがとれていたと思います。「クワイエット・アメリカンズ」を自称する彼らはほんとうに礼儀正しく、まったく手がかからないナイスガイたち。なんども書いているし、なんどでも書きますが、音楽とおなじぐらい人柄がたいせつなのです。

5都市6公演。これくらいの長さのツアーは過去になんども経験していましたが、車でのツアーははじめてのことで想像していたよりもずっと過酷でした。ラディカル・フェイスの3人はわりと慣れている様子だったので、そういうところからもアメリカのバンドの実力が垣間見えました。

アーティストとはいつもいい関係を築きながらツアーできていましたが、やはりツアーに不安はつきもの。あらゆる不安を抱え込むのが常でしたが、今回いっしょにまわったmiaouの存在のおかげでいつもよりは安心感があった気がします。あくまでぼくはツアー・マネージャーだったので、適度な距離感でみんなをバックアップしつつも、「仲間」として、苦楽をともにしながら、互いの信頼感が日に日に大きくなっていくのが楽しくてたまりませんでした。

アルバム『The Family Tree: The Roots』のリリース・ツアーとして、昨年秋のアメリカ・ツアーと2月のヨーロッパ・ツアーを経て、さいごに訪れることになったのが日本。アメリカもヨーロッパも、日本に比べると環境面でもスケジュール面でもずっと過酷なツアーを経験しているだけに余裕すら感じさせました。

さすがに初日の新潟公演は固かったものの、2008年の前回の来日公演はラップトップを交えたソロでのギター弾き語りだったわけで、そのときの印象を一掃するバンド・サウンドは圧巻のひとこと。初日は轟音セット一辺倒で、音響的なバランスの悪さが多少気になりましたが、その後の公演においては、会場の制約ゆえに静かめのセットも織り交ぜていくことでその課題も改善されていきました。毎回セットを変えていくラディカル・フェイス。「会場が変わればサウンドも変わるから、ぼくは実際その日会場にいってからそこに合うベストのセットを考えるんだ。それにいつもおなじセットだと飽きちゃうからね」と、ベン・クーパー。

記念すべきワールド・プレミアとなった新潟公演の「Lost Souls」は、個人的にサウンドチェック時の演奏にはやや劣っていたと思いますが、それでもこの曲がマスターピースであることを証明しました。ツアーが進むにつれて楽曲が成長を遂げていくことは過去に何度も経験してきましたが、この曲に関しては、音楽が、作品が、“生き物”であることを改めて実感しました。あらかじめ期限が決められていたため、バンドもこの曲を演奏することを心底楽しんでいることが伝わってくるんですよね。

・・・と、ここまで書いてきたところで、各公演ごとに書いていっては永遠におわりそうにない気がしたので、ここからは東京公演に絞って書いていきますね。渋谷O-nestをツアー・ファイナルの会場としてブッキングしたとき、ぼくの頭のなかにはもう一公演、より小さな会場でより親密な雰囲気のライヴを用意したいという考えがあり、結果的に池袋にあるミュージック・オルグをブッキングしました。

4日間の地方公演を終え、2日間のオフを経ておこなわれた3/23のミュージック・オルグ公演。この日はラディカル・フェイスのワンマンでした。いつものキーボードではなく、この日のみヤマハのアップライト・ピアノを用いたアコースティック・セット。80㎡にも満たない小さな会場はバンドと観客の距離は30cmくらいだったでしょうか(苦笑)窮屈な思いをさせてしまってすみませんでした・・・!

ロングセットということで事前に案内していましたが、「2時間分くらいならレパートリーがあるから大丈夫だよ」とのことだったので内容については彼らに任せていましたが、なんとジャックがオープニングアクトとしてギターの弾き語りをするとのこと。かわいらしい蝶ネクタイまでして張り切っていましたが、はじめて聴いた彼の曲はブルースに近いもので、意外にも渋い美声。数曲と聴いていましたが、4曲演奏していたところでベンが登場・・・したのですがそのままトイレにいき(苦笑)、結局ジャックは5曲を演奏。ちなみにベンはラディカル・フェイスの終了後もそのままトイレに直行。こんな自由なアーティストははじめてですよ。

「日本語が話せなくてごめんなさい。もし英語がわからなかったら、ぼくの曲はぜんぶ悲しい曲だから」とライヴの最初のMCでベンはいつもそう話していたと思います。「ぼくはハッピー・ソングの書き方を知らないんだ」とある日そう言ったベンにぼくは言いました。「気が合うね、ぼくにはサッド・ソングしか必要じゃないんだ」と返したと思います。。

今回のツアーでは初めて演奏する「Along the Road」でスタート。新曲「The Mute」、そして群馬公演でのアンコールでも披露したシンニード・オコナーの「Nothing Compared 2U」のカヴァーとベンのギター弾き語りが続きます。それ以前のセットリストとは明らかに違う流れに驚かされました。

4曲目の「Wrapped in Piano Strings」からはジェレマイアとジャックが加わり、3人でライヴは進んでいきます。彼らのライヴは演奏以外の部分が冗長すぎるのが短所(好意的に見たら長所ではあるかもしれない)で、セットリストをベンの手帳に書いてはいるものの、他のふたりとそれを共有していないばかりか、ベンがセットリストを覚えていないため、いちいちそれを確認し合ったりしてなかなか次の曲に進まない・・・さらに1曲ごとに曲の解説をしてくれるですが、3人のやりとりがたまにコントのようになってしまったりしていました。この日はワンマン・ショーのせいなのか、ロングセットのせいなのか、親密な会場の雰囲気ゆえなのか、持ち前のグダグダさにさらに磨きがかかっていた気がします・・・(苦笑)

個人的に「Glory」は披露されたすべての公演でハイライトとなっていましたが、この日の「Glory」は格別でした。原曲とは違うライヴ・アレンジはベンの歌声がタマス・ウェルズたちと同様にスペシャルなものであることを証明してくれました。そしてタマスの歌声がぼくの心を鎮め、やさしく包み込んでくれるのと比べると、ベンの歌声はぼくの感情を強く揺さぶるのです。「Glory」のラストのファルセット・パートはベンの歌詞を借りるなら「Gold」でした。

そして、そこから「Welcome Home」の大団円。この日は今回のツアーではじめて大合唱が起こりました。最高に幸福な時間。けど、それ以上に美しい時間が次の日に待っていました。

ベンたちが来日してからすでに9日がすぎた3/24。ついに最後の日がやってきました。ツアー・ファイナルはいつだって特別なもの。アーティストが張り切りすぎて気持ちが空回りするケースもなくはないし、疲労がパフォーマンスを下げるケースもありますが、ぼくの経験上では、ツアー・ファイナルがベストになることが多いのです。今回は特にそうでした。

オープニング・アクトにはニュー・アルバム『UNI 8』をリリースしたばかりの大阪のガールズ・バンドwater fai。miaouとはレーベルメイトになったばかりです。つまりLiricoの親戚。今回のようにファミリーだけでブッキングしたのはほぼ初めてのことでしたが、和気あいあいとした雰囲気がオーディエンスのみなさんにも伝わったとしたらうれしいです。

water faiは、3-4年前に東京で頻繁にライヴを行いはじめて以来何度も観ていますが、近年の覚醒にはほんとうに驚かされます。残念ながらこの日は2曲ほどしか観れませんでしたが、今後その存在感をますます増していくことでしょう。

そして、いよいよmiaouの出番です。ラディカル・フェイスを観に来られた方々にとっては、もしかしたらmiaouのライヴ初体験だったかもしれませんが、まずは機材の多さに驚かれたかもしれませんね。ステージ上にはヴィブラフォン、グロッケンシュピール、シンセ、ラップトップなどが壁を作るように立ち並び、4人のメンバーが代わる代わる楽器を持ち替えて演奏します。全員が複数の楽器演奏の役割を担わされ、しかもそれを高次元のレヴェルでこなしながら美しいアンサンブルを作り上げていく彼らの存在は、この日本においても希有な才能だとぼくは思います。

気づかれた方もいらっしゃるかもしれませんが、この日、miaouは昨年リリースしたアルバム『The day will come before long』を最初から順番に演奏していきました。もちろんepic45のベン・ホルトンがヴォーカルを務めた「Endings」は演奏していませんし、ラディカル・フェイスが参加した「Lost Souls」は演出上、ラストに配置せざるを得ませんでしたが、今回の演奏はまさに”miaou plays 『The day will come before long』”。あの美しい作品をライヴで再現するのはとても困難を極めることだったと思います。ともすれば「Lost Souls」に話題がいきがちだったかもしれませんが、彼らの強い意思と気迫が伝わってくる演奏は、ぼくがいままで観たなかでもベストだったと言えるでしょう。本人たちもいまが全盛期と認めるその自信・・・結成10年目でそう断言できる彼らの芯の強さを感じさせるほんとうにすばらしいライヴでした。

作品とライヴはもちろん別物ですが、それでもなお世界観を伝えることを真剣にやりきろうとする彼らの意識の高さや妥協のない向上心にはともにツアーしてきて脱帽するばかりでしたし、それにはラディカル・フェイスのみんなも同意し、リスペクトしていました。

ラスト直前の「Keep Drifting My Heart」。舞台袖ではクライマックスで激しく身体を揺らすベンとジャック。反対側の舞台袖にはジェレマイアの姿が見えました。曲が終わり、miaouの浜崎さんがラディカル・フェイスの名を呼びます。最後の「Lost Souls」の時間です。

観客席にまで漂う緊張感。ゴーストのささやきのようなベンの歌声に導かれた長いイントロ。「gettin’ lost is how we find our way(道に迷うことはじぶんの道を見つけること)」という歌詞を表現したかのように、ゆるやかに流れていくメロディー・ライン。そして、ゴーストのささやきから叫び声へと変わっていく終盤のクライマックスへ。miaouの4人とラディカル・フェイスの3人の総勢7人による演奏はアンサンブルということばを越えて、それ以上の調和をみせてくれました。

「You say we’re all lost souls, so we’re never alone.(ぼくらはみんな失われた魂. そうさ, ぼくらはひとりじゃないんだ)」というリフレイン。決して平穏な生き方をしてはいないと思われるベン・クーパーという稀代のアーティストの生き方そのものが表現されたような歌詞。その結末にふさわしいこの美しいことばは昨年の3月以降に書かれたものです。そこに必要以上に意味を与えるまでもないかもしれませんが、「音楽は語られなかった悲しみのためのものだ」という、かの詩人のことばのように、また、浜崎さんが「この曲をここにいるみなさんに捧げます」と話していたように、「Lost Souls」はぼくらすべてのひとたちのための歌です。そして、この曲はいま、このタイミングでたった一度だけ奏でられるべきものだと思っていましたし、1ヶ月たったいまもぼくのその思いは変わりません。もし次やるのだとしたら、また別の曲をいっしょに作って、それを演奏すればいいんです。それでいい気がします。この名曲が生まれるはじまりから、こうして演奏されるまで、常にいちばん近くいれたことはぼくの人生の宝だと言えるでしょう。

つづいてラディカル・フェイス。セットリストでは「A Pound of Flesh」でのスタートの予定でしたが、アルバム『The Family Tree: The Roots』の1曲目「Names」のギター弾き語りからはじまりました。もちろん今回のツアーでは初披露。そのままメドレーで突入した「A Pound of Flesh」では、特にディストーションをかき鳴らすギターの轟音のクオリティーがすばらしく、さすがクリス・ガノをして「アメリカに連れて帰りたい」と言わしめたPAさんだなと思いました。また、この日ベンは歌詞を歌うためのマイクと、より深めにリヴァーブをかけたコーラス用のマイクというダブル・マイクで挑みましたが、まさにラディカル・フェイスの多彩なヴォーカル・ワークの本領発揮。とんでもないことになっていました。

1st『Ghost』で1、2を争う名曲「Wrapped in Piano Strings」から、轟音セットを象徴する「Black Eyes」はフル・パワーで。会場によってはそのポテンシャルを存分に発揮できず、おそらくみんな多少ストレスを感じていたのだと思いますが、この日はそんな足かせから解き放たれて活き活きとした演奏を聴かせていました。

しっとりとした「Moon Is Down」を挟んで「Doorways」へ。ライヴを聴いたおかげでよりその曲のことが好きになるというパターンがツアーごとにありますが、ラディカル・フェイスの場合、この曲がそのパターンでした。「こどもの頃にかつて信じていたものについての曲」とベンは説明していましたが、「I believed that stars are wishes. I believed…」というフレーズがつづくこの曲の歌詞は個人的にベン・クーパーが書いたもののなかでももっとも好きなものです。音源とはずいぶん違うラウドなアレンジも秀逸でした。

「Winter Is Coming」はジャックのいちばんの見せ場。MCではいつも「この曲はジャックががんばります」とベンが説明、そして「もし失敗したらみんなでブーイングしてやろうぜ」っていうパターンばかりでしたが、この日のMCでは「成功したら”ベリー・ハイファイヴ”してやるよ」というまさかの逆パターン。「ベリー・ハイファイヴ」ってなんのことかわかっていませんでしたが、すばらしいドラム演奏で応えてくれたジャックとベンがそのクマのようなおなかを出して、ぶつけ合って讃え合いました(ベリーはベリー・ダンスの「belly」でした)。この日いちばんウケた“ラディカル・コント”はこれでしょうね。。。

つづく「Always Gold」は個人的にラディカル・フェイスの数ある曲のなかでもさいこうだと思っている名曲。家を出ていった弟と、一方で家にいつづける兄の物語はアルバムの核とも言える曲で、今回のツアーではどの公演でも終盤の要所に配置されていました。インタールードではジェレマイアがギターのトレモロアームを使って召還したゴーストのささやきが印象的。これは「Severus and Stone」(「双子の兄弟が死んだの見た少年についての歌」とベンの談)でもジェレマイアは同様に行っていましたが、いま思えば、もしかしたら「Always Gold」では、出て行った弟の死を暗示していたのかもしれないですね。こんどベンに訊いてみよう。

本編ラストは定番の「Welcome Home」。ベンがmiaouのみんなをステージに迎え入れます。miaouはコーラスとハンドクラップ、そして足踏みを担当。「サウンドチェックで1回練習しただけだからどうなるかわからないけど」とベン。そして、観客のみんなにもコーラスをお願いして、実際に演奏に入る前にみんなで練習をしました。「ジャック、どう思う?」とベンが振ると、ジャックは「もっと!」と。「Be Americans(アメリカ人になれ!)」とも言ってましたね。

ラディカル・フェイスとmiaou。長いツアーの終わり、「Lost Souls」とはまた違ったクライマックスはまさに大団円でした。この曲はすばらしい映像が残っているのでぜひご覧いただきたいですが、バンドと観客がことば以上の意味でひとつになっていたあの会場の雰囲気はほんとうに最高!

幸福の時間はいずれおわりを迎えます。アンコール1曲目は「Glory」。前日演奏していた新曲「The Mute」かどちらかに決めるよとベンは言っていましたが、この曲が選ばれました。前日同様、今回のツアーでも上位に入るほどの魔法に満ちた瞬間です。

そして、ラストはディズニー・アニメの「ロビンフッド」のカバー曲のメドレーで終了。ジェレマイアとジャックのパーカッション隊が客席まで乱入して暴れ回ります。「golly, what a day! (あら、なんて日なの!)」という楽しすぎるフィナーレは愛と笑いだらけ。ここ数年、ネット上で他のアーティストのライヴのいい評判を見たりすると、それに対抗心を抱いたりするようなじつに厄介な時期がつづいていて、思い詰めたような日々がつづいていましたが、今回のライヴはそんないろいろな葛藤を一掃する会心の内容でした。あの場にいたすべてのひとに楽しんでもらえた自信がありますし、あの至福の場を用意できたことをぼくはずっと誇りに思いつづけることでしょうね。

最後に。ぼくはmiaouもラディカル・フェイスも舞台袖で観ました。モニタの音と客席のスピーカーでは厳密には違う音作りになるため、観客席のほうが音は格段にいいはずでしたが、ぼくはバンドのみんなとともに舞台袖で見守るほうを選びました。ともに過ごした長いツアーのおわりにぼくがいるべき場所は、そこしか考えられなかったから。また、そこにいたせいで「Welcome Home」のときに彼らはサプライズでぼくをステージに上げようとしていたのを全力で拒否したのですが、彼らとともに過ごしてきて、彼らをリスペクトしているからこそのことでした。ステージはアーティストのものです。ぼくなんかが気軽に立つべきじゃないんですよ。

ラディカル・フェイスがまた来日することがあるかどうかはわかりません。また呼びます、とここで簡単に約束できる程度の軽い気持ちで今回のツアーをおこなったわけではありません。なので、今回もし見逃した方は後悔して次回来日という奇跡があることを信じていてください。そして、今回お越しいただいた方は、この幸福な記憶をいつまでも持ちつづけていてもらえればと思います。みなさんへの感謝の気持ちは簡単にことばにできるようなものではありません。とりあえず、次のアルバムは2013年中にリリースされる予定ですので、みんなでそれを待ちましょうか。別れぎわ、ベンに歌詞を引用して伝えました。「You are always gold to me」と。新しい宝石を待っていますよ。

さて、今回のツアーに関わっていただいたみなさまへの感謝の思いを綴って、このツアー後記を終えたいと思います。ほんとうにどうもありがとうございました!!

*O-nestのライヴ中の写真は三田村亮さんにお借りしました。

以下、全公演のセットリストです。

(さらに…)

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