“天才ヴォーカリスト”スコット・マシュー、世界が彼を発見するよりもはるか昔の幻の作品。甘く切ないカリスマの誕生の瞬間は、のちに菅野よう子と共に仕事をするきっかけとなった。
ニューヨーク在住オーストラリア人シンガー・ソングライター、スコット・マシュー。日本が世界に誇る作曲家菅野よう子に見出され、『攻殻機動隊』(STAND ALONE COMPLEXシリーズ)や『カウボーイ・ビバップ 天国の扉』のサウンドトラックにヴォーカリストとして参加し、さらにジョン・キャメロン・ミッチェル監督の『ショートバス』への楽曲提供と出演によって世界中から熱い視線を集めている。これまでに2枚のソロ・アルバムをリリースし、2009年には菅野よう子率いるシートベルツの世紀の大イベント「七夕ソニック」(@さいたまスーパーアリーナ)にも出演、一方で初のソロ公演も成功させた。
本作は彼が10年前にニューヨークに出てきたころ、モリッシーのバンドの元ドラマーで作曲家のスペンサー・コブリンと出会い、結成したユニット=エルヴァ・スノウが2005年に残した作品に2曲の新曲を加えた再発盤。
ここではスペンサーが作曲とアレンジを行い、スコットは作詞とヴォーカルを担当。人の心を震わせるエモーショナルなヴォーカリゼーションはこのころから完成されており、エルヴァ・スノウでの彼の歌声を聴いた菅野よう子が自身の作品のヴォーカリストに抜擢したというエピソードがある。
モリッシー・バンドで8年間ドラマーを務め、ファンのあいだからも人気の高いスペンサーは同時に一流の作曲家であり、ここではその才能を遺憾なく発揮し、当時「ニューヨークの隠れた財宝」と評されていたスコット・マシューの唯一無二の歌声によって、信じられないほどに瑞々しく、エモーショナルでセクシーなロック・アルバムとなっている。ソロ・アルバムとは雰囲気は違い、ここではスコット・マシューの佇まいはまるで『Space Oddity』期のデヴィッド・ボウイのよう。まだスコット・マシューがプロのシンガー・ソングライターとしてのキャリアをスタートさせるはるか前、ヴォーカリストとしての才能の開花の瞬間を閉じ込めた、隠れた名盤である。
数年ぶりの共作となった新曲「Last Drink」と「Hollywood Ending」はスコット・マシューのソロ作に収録されてもおかしくない作風で、まだ20代半ばだったエルヴァ・スノウ時代と比べて、30代後半となり酸いも甘いもさまざまな経験を重ねたスコットの歌唱力の成長と変化を感じさせる名曲です。また、新しく生まれ変わった印象的なアートワークはスコット・マシュー・バンドのピアニストでもあるMarisol Limon Martinezが手がけている。
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