ウルズラ・ボーグナーっていったいダレ? ──2008年、それまでに本名名義、あるいはよりダンスフロア向けの名義であるファーベン(Farben)としてジャズやソウル、さらには忘れ去られたクラウトロックなどの短い断片をループさせ、そのループポイントをすこしづつズラしていくことでサンプリング・ループ・ミュージックに揺らぎやモアレの感覚を導入したヤン・イェリネックが、自身のレーベルである“faitiche”の第一弾としてリリースしたのがウルズラ・ボーグナーであった。
そのプレス・リリースにはウルズラ・ボーグナーなる人物について、以下のように記されている。
 
──ウルズラ・ボーグナーはこれまでずっと発見されてこなかったアーティストで、大手製薬会社のシェリングに勤める薬剤師であると同時に、Herbert Eimert(ドイツの電子音楽家。ケルンのWDR electronic music studio設立者の一人)の電子音楽講義に出席するなど、あくまで個人として電子音楽にのめりこんでいた。また、ヴィルヘルム・ライヒ(ウクライナ系ユダヤ人の精神分析家。プロレタリアートの性的欲求不満が政治的萎縮を引き起こすと説いた)のオルゴン理論に魅了され、60年代後半にはテープ録音を開始、1994年死去──
 
ヤン・イェリネックによれば、飛行機のフライトでたまたま彼女の息子であるセバスチャン・ボーグナーと隣あわせになったことから作品のリリースに発展したとのことだが、それにしてもそのウルズラ・ボーグナーの作品は、制作された時期とされる69年~88年の音楽としてはあまりにも謎めきすぎていた。そこでは確かに電子音楽黎明期の音楽的文脈が踏まえられていたが、しかし新しくもきこえるし古くもきこえ、それがいつの時代に作られたものなのか、まったく聴き手を煙にまくようなものだったのだから。
「こんな音楽をこの時代にやってたなんて考えられない」発表された当時にはそう主張する意見もちらほら見られたが、彼女の半生を綴った詳細すぎるライナーノーツや、時系列を追ったポートレート、また、彼女が手掛けたとされるペインティングなどのアートワークがふんだんにフィーチャーされていることによって、ウルズラ・ボーグナーは確かにかつて存在したのである、という認識が広がり、そのあまりにも音楽的タイムラインを飛び越えたサウンドに対する評価が高まっていった。
 
さて、本ツアーは、そのウルズラ・ボーグナーの来日公演である。もう亡くなっているのだから来日公演などできようはずもない……のだが、実はこのウルズラ・ボーグナー、ヤン・イェリネックの盟友であるアンドリュー・ペクラーとイェリネック自身による架空のプロジェクトであることが明かされ、この来日公演は、その日本初お披露目となる。
いったいなにゆえにこれほどまで手の込んだフェイクを用意したのか、それはレーベル名である“faitiche”にその鍵があるのかもしれない(factとfetishを組み合わせた造語である“factish”のドイツ語読み。「主体‐客体」という近代的二分法からの脱却を問うた、フランスの社会学者であるブルーノ・ラトゥールによって1999年提唱)。
ライヴでは、ウルズラ・ボーグナーのペインティングや写真(という設定のアート)などもフィーチャーし、「かつて確かに存在したかもしれない」ひとりの音楽家の姿が描き出されるとのこと。もし、ウルズラ・ボーグナーがほんとうにいたとしたら……。それがどのような音となるべきなのか、ぜひご体験ください。
 
(テキスト: 西山伸基)
 
 

“Andrew Pekler & Jan Jelinek Play Ursula Bogner” Japan Tour 2014

 
6/28(土) 福岡公演
『otonoha』
at.Kieth Flack 2F
共演: Vegpher / little side effect
DJ: T.B. / Hiroyuki Mori
19:00 open/start
フライヤー持参: 2500yen / 当日: 3000yen ※ドリンク別
予約・お問い合わせ: otonoha otonoha2001@gmail.com
詳細: http://www.kiethflack.net/
 
6/29(日) 東京公演
at.落合soup
共演: 長谷川静男 (Hasegawa-Shizuo) / 光線獣 (Kousenjuu: Stéphane Shibatsuji-Perrin + Yousuke Fuyama)
DJ: Nobuki Nishiyama
19:00 open/start
料金: 2500yen
予約・お問い合わせ: 落合soup
 ochiaisoup@gmail.com
詳細: http://ochiaisoup.tumblr.com/#85409342039
 
7/4(金) 和歌山公演
お還りなさい × the birth for nil presents『よい宵 special night』
at.匠町ギャラリー
共演: Caprice Of Mercury / the birth for nil
DJ: KATAGIRI、FUYURI、ICR、Johann Okata
FOOD:アジアのごはん(なーむ)
20:00 open/start
前売り: 3000yen / 当日 3300yen (限定40名)
予約・お問い合わせ: お還りなさい okaeri.info@gmail.com
詳細: http://takumi.ikora.tv/
 
7/5(土) 金沢公演
『connecting vol.17』at.kapo
共演: ASUNA / sanchan / Susumu Kakuda
時間: 未定
料金: 2500yen
予約・お問い合わせ: 
wyatttrobertsdream@googlemail.com
詳細: http://www.kapolog.com/
 
7/6(日) 京都公演
at.METRO
共演: Ametsub (DJ set) / Polar M / SjQ
DJ: tsukasa / Tatsuya Shimada (night cruising)
18:00 open/start
前売り: 2800yen / 当日 3300yen ※ドリンク別
予約・お問い合わせ: night cruising 
info@nightcruising.jp
詳細: http://nightcruising.jp/140706_metro
 
※各公演の追加情報はこちらのページにて随時更新させていただきます。
ツアーに関するお問い合わせ、取材等はnight cruising info@nightcruising.jp まで。
 
– 関連公演 –
6/30(月) 19:00 open/start
『BONDAID#3』
at.Bullets Tokyo
出演: Andrew Pekler / Nyantora (Sound Of Romances) / 食品まつり aka foodman (Orange Milk, Digitalis, Dubliminal Bounce)
HiBiKi MaMeShiBa (Gorge In) / SlyAngle (melting bot / BONDAID)
料金: 1500yen ※ドリンク別
詳細: http://bondaid.jp
 
Total Information: 
http://nightcruising.jp/ursulabogner_tour/
 
企画/制作: night cruising
協力: p*dis / melting bot / otonoha / 落合soup / お還りなさい / the birth for nil / sanchan / Susumu Kakuda / METRO / & more
 
助成:ドイツ連邦共和国外務省、Goethe-Institut